不安社会~安心・安全を求めて
過去に例のない事件、動機が理解できない凶悪犯罪が相次ぐ現代は、体感不安が拡大している。安心・安全という言葉が強調され、世の中を覆う不安はどうも尽きない。そんな「不安社会」の実像を見つめ、東北大大学院文学研究科の吉原直樹教授(社会学)の関連する研究成果も織り交ぜながら、人々の営みを豊かにする安心・安全の在りようを考えたい。(「不安社会」取材班)
東北みらいプロジェクト
「生きテク 死ぬ技術はもういらない」と題して、生活困窮者の自殺防止を考えるシンポジウムが28日、仙台市青葉区のせんだいメディアテークで開かれる。ホームレス支援に取り組んでいるNPO法人ワンファミリー仙台の主催。
3年前から自殺ゼロキャンペーン「生きテク」を行っているオキタリュウイチさん(東京)が基調講演し、貧困など困難な状況に直面した際の「生きていく技術」などについて語る。
続くパネル討論では「シグナル(SOS)を見つける方法」をテーマに、オキタさんと宮城県内の臨床心理士、保護司、反貧困みやぎネットに参加する弁護士らが意見を交換する。生活困窮者のカウンセリングなどに当たっている仙台市の臨床心理士、吉田香里さんがコーディネーターを務める。
ワンファミリー仙台はこれまで、宿泊施設でのホームレス受け入れなどを中心に、自立支援に当たってきた。貧困問題と自殺防止を絡めた取り組みは今回が初めて。
自殺対策強化月間(3月)に合わせ、県内のコミュニティーFM局などで「生きよう」と呼び掛けるCMを流し、その締めくくりとしてシンポジウムを企画した。
立岡学理事長は「『一人じゃないんだよ。みんなで支え合って生きていこう』というメッセージを感じ取ってもらえる場にしたい」と話している。28日午後2時から。入場無料。事前申し込みが必要。連絡先はワンファミリー仙台022(274)9533。
若者が気軽に労働法を使える街にと、雇用問題に取り組むNPO法人POSSE(東京)の支部組織「仙台POSSE」の設立記念シンポジウムが21日、仙台市青葉区の市市民活動サポートセンターで開かれ、雇用契約などで違法状態がはびこる要因や設立意義などを話し合った。
仙台圏に住む10~40代の男女7人が参加。若林区の会社員佐藤恵里さん(27)が「若者が一人で悩まずに権利を使えるよう気軽に相談できる窓口になりたい」と設立趣旨を発表した。
POSSEの今野晴貴代表(26)=仙台市出身=、仙台弁護士会の北見淑之弁護士(39)らを交えたパネル討論も行われ、「雇用問題に取り組む団体の接着剤的役割を果たしてほしい」など激励の声が上がった。
会員らは昨年7月、河北新報社で開いたセミナーを機に労働法の勉強会を始めた。今後は若者への労働相談、POSSE作製の労働法教育教材を使った出前授業などを行う。労働相談窓口などの連絡先は仙台POSSE080(3243)7051。
【写真】今後の活動に向け、顔をそろえた仙台POSSEのメンバー
若者の雇用問題に取り組んでいるNPO法人POSSE(東京)の仙台支部「仙台POSSE」が21日に正式発足する。同日午後2時から、仙台市青葉区の市民活動サポートセンターで設立記念シンポジウムを開き、今後は労働相談や労働法教育の普及啓発を中心に活動していく。
仙台POSSEの発足は、昨年7月に河北新報社で開いた労働法教育セミナーを機に盛り上がった。昨年秋から仙台市周辺に住む10~40代の男女7人が月に2回集まって労働法を学び、設立準備を進めてきた。
労働相談は電話で随時受け付け、必要に応じて面会によるアドバイスも行う。POSSEが作成した労働法教育教材を活用して出前授業を行うほか、弁護士や大学教員など労働問題の専門家を招いたイベントの開催なども考えている。
仙台市出身でPOSSE代表の今野晴貴さん(26)=一橋大大学院=は「POSSEの初めての地方支部。学生の多い仙台で、若者も社会に貢献できることを周囲に示したい」と語る。活動に興味のある新しい仲間も募集しているという。
設立記念シンポジウムは、北見淑之弁護士(仙台弁護士会)、寺島英弥河北新報社生活文化部長らが仙台POSSEの設立の意義などについて議論する。
仙台POSSE代表の甲斐谷徹彰さん(23)=東北大医学部4年=は「記念すべき出発点。労働問題への関心の輪を広げていきたい」と話している。
連絡先は仙台POSSE080(3243)7051。
【写真】仙台市役所で記者会見する仙台POSSEのメンバー
パネル討論では、労働法教育の実践事例や、NPOの果たす役割などを話し合った。3人のパネリストからは、労働法教育の普及には「教員の意識向上、努力が不可欠」という意見が相次いだ。
▼実践の具体例 1年生を担任する三浦さんは、学級通信に随時、労働法Q&Aを載せ、生徒の関心を喚起しているという。前任校では、5年間進路指導部長を務め、卒業前の3年生には自ら労働法を講義してきた。
「問題を抱えた卒業生が、労働基準監督署や弁護士に相談するのはハードルが高い。最も身近なのは学校で『何かおかしいと思ったら学校に来い』と伝えてきた」
三浦さんは、法律の専門教育を受けた経験がない。「教師の使命」を感じて、労働法を独学し、キャリアカウンセラーの資格も得た。その経験を踏まえ「多少の知識不足があっても、教師自身が悩みながら教えるのが一番」と話す。
▼教育界の在り方 「労働法教育は教師の役割」という三浦さんの意見に同意しつつ、「教育界が教育の必要性を認識していない」と問題提起したのは道幸さん。「年金問題が起きても、年金のシステムを教えようという議論にならなかった。教育界が社会問題と違うレベルで動いている」と懸念を示した。
今野さんは「書店に並ぶ労働法の解説書は難解すぎる。読み解ける人は少なく、大半は断念してしまう」と指摘。実践を重視したPOSSE製作の教材を紹介し、「ルールと全く違う現実を覆すためには、法知識でなく、法を使うことが大事」と強調した。
▼NPOの役割 POSSEは20代中心の若い団体だ。今野さんは「高校生と年齢が近く、同じ目線に立てる強みを生かし、先生たちの取り組みのプラスアルファになりたい」と意気込む。道幸さんも、北大教員や弁護士らと組織したNPO法人「職場の権利教育ネットワーク」代表として、「公的機関による権利教育」普及に向け、活動してきた。
三浦さんの唱える「教師自身が教える」教育はまだまだだが、宮城県内では昨年秋ごろから、外部講師を招いて労働法の授業を行う高校が目立ち始めている。「教員の労働法教育に対する興味関心を、NPOが育ててほしい」(三浦さん)と、現場からも強い期待の声が上がった。
【パネリスト】
北海道大教授道幸哲也さん
宮城県貞山高教諭三浦 浩さん
NPO法人POSSE代表今野晴貴さん
【コーディネーター】
河北新報社生活文化部記者 松田 博英
【写真】パネル討論では労働法教育を広める具体的な意見が数多く出された
若者のための労働法教育をめぐって、河北新報社「不安社会」取材班とNPO法人「POSSE」が先月開いた雇用問題セミナーの模様を紹介する。テーマは「働く者の権利やルールを若者にどう教える? 雇用不安社会の中で」。北海道大の道幸哲也教授が「労働法を身近なものに」と題して講演した後、宮城県貞山高の三浦浩教諭らと討論した。
北海道労働審議会の会長を務めていた2006年、働く際の権利義務について教える必要性を盛り込んだ報告書を道に提出した。高校などの教育現場では、一定の労働法教育がなされてはいるが、複雑化する職場のルールを知るには不十分。それが労働紛争の適切な解決を阻害している面もあったからだ。
しかし、教育サイドの関心は低かった。そのころはPOSSEの活動もまだ本格化していなかったし、全国的にもこの問題にきちんと向き合っている人は、まだ少なかったように思う。
労使や行政機関も十分な問題意識を持っていないことが分かった。結局、自主的な運動によらざるを得ないと考えて、07年に札幌市でNPO法人「職場の権利教育ネットワーク」を発足させた。
若者の失業者の増加やフリーター化は社会的に大きな注目を浴び、勤労意欲の育成やキャリア形成のための施策などが講じられてはきた。だが、職場で労働者の権利が必ずしも適正に守られていない現実がある。
権利が守られることは、働くことの前提だ。職場での権利やルールの在り方を直視せず、勤労意欲の面ばかりが強調されるのはおかしい。そうした視点から、設立したNPO法人では、ワークルール教育の担い手の育成や派遣、ネットワーク化などを模索している。
若者に分かりやすく教えるための教材をどうするかも大事な問題。その一つとして先ごろ、職場のさまざまなトラブルを寸劇にまとめたDVDを作製した。収録にはPOSSEの皆さんにも協力してもらった。まずは道内の高校に配布して活用してもらう予定だ。
最近は会社の側が、労働者を雇っておきながら労働法の知識がどうも欠けているようだ。特に若い経営者にその傾向が見られる。労働者も、自らの権利を主張しようとする意識が身についていない。これも若い人が特にそうだと思われる。
社会全体で、労働法教育のニーズが出てきており、具体的に軌道に乗せていくための方策が問われている。
<どうこう・てつなり氏>北大法学部卒。1985年から現職。NPO法人「職場の権利教育ネットワーク」代表理事。著書に「15歳のワークルール」など。62歳。
【写真】「若い人は自分の権利を主張する意識が身についていない」と指摘する道幸教授
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