不安社会~安心・安全を求めて

 過去に例のない事件、動機が理解できない凶悪犯罪が相次ぐ現代は、体感不安が拡大している。安心・安全という言葉が強調され、世の中を覆う不安はどうも尽きない。そんな「不安社会」の実像を見つめ、東北大大学院文学研究科の吉原直樹教授(社会学)の関連する研究成果も織り交ぜながら、人々の営みを豊かにする安心・安全の在りようを考えたい。(「不安社会」取材班)

東北みらいプロジェクト

(3)外国人/厳しい入管に違和感

2008/05/28
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<ビザ間に合わず>
 最近の日本は、どことなく外国人を警戒し過ぎてはいないか。
 3月末の東北大大学院博士課程の卒業式。中国人留学生の女性(30)=仙台市太白区=は、さびしい思いで出席した。黒竜江省ハルビン市に住む母(60)と姉(38)を呼んだが、ビザが間に合わなかったのだ。
 式の1カ月前に申請したのに、母のビザが下りたのは4月下旬、姉のビザは許可されなかった。3年前に母が来日したときは、申請から2週間ですんなり下りた。以前とは違う厳しい雰囲気を感じる。
 「親や祖父母以外のビザは難しくなったと、みんな話している。兄弟のビザが下りなかった中国人は多い」と語る。
 初めてのはかま姿で式に臨んだ。日本人の友人は優しい。日本の良さに触れてきた。それだけに「家族に日本での自分の姿を見てほしかった。大切な式を一緒に過ごせなかった」と残念がる。
 女性が外国人の入国管理の厳しさを感じたことが、もう一つある。入国時の指紋採取だ。

<信じてないのか>
 国は「テロ対策」を掲げて昨年11月、日本に入国する外国人に指紋採取と顔写真撮影を義務づけた。在日韓国、朝鮮人の特別永住者や外交官らを除き、16歳以上の全外国人が対象。入国時に指紋採取を行っているのは、世界中で米国と日本の2カ国だけだ。
 女性は3月、ベトナムでの学会の帰途、仙台空港で指紋を採られた。「私は犯罪を起こさない。留学生は国の代表で、行動に気をつけている。悪いことをする人もいるが、外国人全員を信じていないようで、良い気がしない」
 指紋採取に対し、仙台市に住むイスラム教徒(ムスリム)はさらに複雑な思いを抱く。
 東北大大学院のリビア人留学生(34)は「日本は安全な国で、今後も安全を守ることは大事」と一応の理解を示す。
 しかし、エジプト人留学生(30)は「良い方法とは思わない。自分が他国で同じことをされたら、どう思うか」と指摘する。米国人ムスリムの英語講師は「日本がテロを受けたのは、日本人によるオウム真理教のサリン事件だけでは?」と、外国からのテロ防止という目的自体を疑問視する。

<車内調べられる>
 パキスタン人留学生(26)は昨年12月、市内で車を運転中、車線を変更しようとして前の車に接触した。軽微な物損事故だったが、駆けつけた警察官に車内をくまなく調べられ、違和感を覚えた。「令状もないのに、驚いた。『ムスリムだから』との理由以外に考えられない」と振り返る。
 留学生は「ムスリムは世界中に十数億人いる。日本人がみなオウム真理教でないように、ムスリム全員がテロリストのはずがない。イスラム教は平和を求める宗教で、テロの原因は宗教ではない」と冷静な判断を求める。

◆共生を目指し教育支援

20080528-02.jpg 入管の指紋採取は、人権侵害との批判を受け2000年に全廃された指紋押なつ制度を、思い起こさせる。
 かつて、指紋押なつを拒否して逮捕された経験がある在日韓国人三世で、弁護士の張学錬(チャン・ハンニョン)さん=東京都=は「指紋が個人認証に利用される時代とはなったが、テロ対策を徹底するなら日本人の指紋も採る必要がある。外国人に限っている点に差別意識がある」と問題点を指摘する。
 さらに「入管は職業や結婚形態などプライバシーにまで立ち入る。テロ対策を名目に、思想・信条にまで踏み込み、都合の悪い人を排除できる」と懸念を強める。
 外国人をめぐる管理強化は、社会の「不安」を取り除くことにつながるのか。
 東京のNPO法人「多文化共生センター東京」は、3年前から外国人の子どもに、日本語と数学などの教科を教えている。「たぶんかフリースクール」といい、国際結婚や定住した外国人の親が呼び寄せた子どもが対象。小中学生の学習指導や高校進学を支援している。
 代表の王慧槿(ワン・フイジン)さんは「読み書きが不十分で学歴が低いと、就職など日本の生活に困ることが多い。犯罪など反社会的な問題にもつながりかねない。本人にも社会にとっても、将来の不安要素を取り除くために、しっかりした教育が必要だ」と社会的な意義を強調する。
 外国人の子どもの教育は、文科省も昨年度から一部地域で就学支援事業を始めたばかり。王さんは「いろいろな人がいて当たり前との意識が、多文化共生の前提。日本人も変わる必要がある」と指摘する。


◎記者ログ/多様性認め相互理解を

 弁護士の張学錬さんによると、最近こんなケースがあったという。
 バングラデシュ人の研究者が、化学関係のベンチャー企業の役員に決まった。だが、入国管理局に「新規創業は職業として不安定」などと判断され、滞在ビザの延長が認められず、オーバーステイになった。
 海外からの人材や投資の受け入れが当たり前の時代に、お粗末な話ではないかと張さんは憤る。
 張さんは、入管は「人権の試金石」と表現する。外国人が立場の弱さにさらされる最前線という意味だ。外国人に対する管理強化は、日本全体の管理社会化のバロメーターともいえそうだ。
 排外的な動きの一方で、市民レベルでの交流は活発化している。多様性を認め合う社会のために、相互理解の広がりが望まれる。(A)

【写真上】外国人旅客でにぎわう仙台空港。ほとんどの外国人に指紋採取が義務づけられている
【写真下】外国人の子どもに日本語を教える多文化共生センター東京の「たぶんかフリースクール」=東京都荒川区

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