シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

6.戦争と兵士

2008/09/05

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 コンペ部門の日本映画のしんがり、押井守監督の「スカイ・クロラ」の正式上映が9月3日の夜10時に行われ、事前に記者会見が行われました。写真はそのときのもので、押井監督と声の主演をされた加瀬亮さんです。

 「スカイ・クロラ」は「崖の上のポニョ」と同じく、現在日本で公開中の作品ですから、ご覧になった方も多いと思いますが、平和を維持していくためにショーとしての戦争が行われている世界で、戦闘員として作られたキルドレと呼ばれる年をとらない子供達の物語です。アニメ・ファンでオシイの名を知らない者はいないほど有名な押井監督ですが、カンヌ映画祭では2004年に「イノセンス」がコンペに出品されていますし、ヴェネチア映画祭でも「GHOST IN THE SHELL」や「立喰師列伝」が特別上映され、世界の映画界でも知名度は十分。知人の中国人記者は、"今年一番期待していた映画"、と言っていました。

 映画は戦闘場面を動、地上の生活を静に分け、戦闘で死なない限り、永遠の命を約束されたキルドレたちの生命のほとばしりをリアルでダイナミックな空中戦に、残りの時間をまるで死んだようにモノトーンな日常に描き分けています(キャラクターもリアルさを避け、わざと漫画風にカリカチュアされています)。

 記者会見で押井監督は「人間が人間である限り、戦争はなくならない。戦争のあり方が変わるだけ」と語っていましたが、その翌日コンペ部門で上映されたキャスリン・ビグローの「ハート・ロッカー」は、まさに現実の戦争、イラクで戦闘中の米軍の爆破物処理班を主人公にしたアクション映画でした。

 「スカイ・クロラ」と「ハート・ロッカー」はアニメと実写、非現実と現実という、まったく違う戦争をまったく違う手法で描いた映画を見ながら、ヒリヒリするようにリアルな戦闘場面と、兵士が休暇で帰国したときの日常の描き分けが、まさに同じであることに気づきました。イラク戦争は現実に進行中の戦争でありながら、私達にとっては、テレビのニュースで知ることしかできない、どこか別世界で起こっている戦争です。押井監督が「スカイ・クロラ」で描いた架空の世界は、実はとてもリアルな、私達の現実なのかもしれません。

(齋藤敦子)