シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)石坂健治ディレクターに聞く アジアの風部門

2008/10/20

tiff08_02_01.jpg 映画祭開幕前日の17日、昨年に引き続き、アジアの風部門プログラミング・ディレクター石坂健治氏にアジア映画の現状と映画祭について話を聞いた。  

-昨年、初めて<アジアの風>を担当されたわけですが、感想は?
 
 石坂「反響はすごく良かったです。それも"今後こういう映画をやって欲しい"というような、具体的な意見を数多くいただきました。ただ、評判がよい作品でも国内配給に結びつかなかったという問題点が残りましたね。アジア部門の賞はコンペより小さく、目立たないということもありますが、受賞作品ぐらいは何とか公開したいという思いはあるんです。

 ただ、今、配給会社があまり冒険しなくなっているという気配を感じますね。例えば、パン・ホーチョン監督の作品はチケットが毎年完売するし、ファンクラブみたいなコアな女性ファンがついているんですが、彼にしても、まだ1本も日本公開されていないんです。ですから、手応えを喜ぶと同時に、アジア映画がもう一つ広く知れ渡りにくいというハードルも感じました」
 
-ヴェネチアでマルコ・ミュラーにインタビューしたとき、彼も個性的な独立系の配給業者がいなくなったことを嘆いていましたから、それはアジアというより、グローバルな現象かもしれませんね。昨年から、いわば"暉峻アジア"から"石坂アジア"へ、ちょっと緯度が西寄りに変わったわけですが、その点の反応はどうでしたか?
 
 石坂「東アジア映画のファンは数多いし、彼らは何本でも上映して欲しいという人達ですからね。でも、昨年はサブ・イベントとして韓国映画や香港映画の特集もありましたし。ブログなんかでは不満が書き込まれたりしていたようですが(笑)、気にすればキリがないですから。でも、劇場へ行って観客の顔を見れば、西寄りのファンが増えたなという反応をビシビシ感じました。ただ、西寄りとは言うけど、パノラマの作品も数的に東西釣り合っているし、レトロスペクティヴもパレスチナのラシード・マシャラーウィと韓国のキム・ギヨンで釣り合っているし、結構釣り合いがとれているんですよ」 
 

-今年のラインナップはどうですか?

 石坂「今年は姜文やアン・ホイ、ヤスミン・アハマドといった巨匠の作品もあるんですが、むしろ、若手や、評価の定まっていない新人の作品を自分で発見するという形にシフトしているかもしれません」 

 -7月に亡くなったユセフ・シャヒーンの追悼上映作品に「カイロ中央駅」を選んだ理由は? というのは、ヴェネチアでも同じ作品だったので。 

 石坂「この作品は去年のアラブ映画祭で上映したものなので、字幕がついていて出しやすかったのと、個人的にシャヒーンはやはり50年代が一番いいと思っているからです。それに、今回の反応がよければ、レトロスペクティヴをやりたい気持ちがあるんです。今年、キム・ギヨン監督のレトロスペクティヴが出来たのも、去年の「高麗葬」の反響がすごかったからなんです。マシャラーウィの方は、古巣の国際交流基金の映画祭で「Waiting」を上映した際に監督と出会い、そのときにビデオで作品を見せてもらいました。パレスチナというと政治的な問題もあるし、敷居が高いように感じるかもしれないけど、どれも映画的にすごく面白かった。今回、「ライラの誕生日」という新作が出来るタイミングと映画祭がぴったり合ったので、この機会に彼の作品を全部やろう、ということになりました」 

-2年目を迎えて、今後の展望が見えてきた?

 石坂「今年は初動が早くできたので、いろいろな映画祭や現地調査へ行くことができました。ドバイ、テヘラン、デリー、香港、台北、ソウルと、大映画祭ではないが、現地の映画の顔が見えるようなところです。おかげでニューウェーヴというか、新しい映画の動きが出かかっている地域が幾つか見えてきて、地域の特集を含めて3年分くらいの青写真が頭に入った気がします。例えば、前回の地域の特集はマレーシアでした。2006年に暉峻君と一緒にやったときで、ヤスミン・モハマドなどを紹介しました。あの反響は大きく、その後つながりが出来て、ヤスミンの今回の新作はチケットがすぐに売り切れてしまったほどです。そういうつながりが大切だと思うんです。具体的に言えば、台湾、トルコ、シンガポールあたりで新しい芽が出だしていて、今後継続して見て行きたいと思っています。

 また、デジタルが新しい動きを生み出している点も注目です。今年は6本ほどデジタル作品が入っていますが、質が高まっています。マレーシアなどはマイノリティがデジタルの簡便さを利用してマイノリティの問題を作品にして成果をあげています。多民族国家のマイノリティの動きは注目ですね。これからの<アジアの風>は、アジアという広い地域をカバーしつつ、各地を定点観測し、そこで起こっている新しい動きは絶えず視野に入れ、その成果を毎年獲り入れるのがパノラマ、その動きが一つの流れになってきたら特集として引き上げる、という風にしたいと思っています」

 -アジアは広いから大変ですね。 

 石坂「でも好きなんですよ(笑)。それから、西洋的な視点でない、アジア映画史の発掘も考えています。アジア各地に知られざる巨匠がいるんです。戦前の上海や50年代のマレー半島、大映の永田雅一と香港とのつながりとか。そうそう、もう1つ、ぜひやりたいと思っているのは、サブテキスト的なカタログを作ることなんです。現状では人手もないし、難しいんですが、いつかはやりたいと思っています」 
-石坂さんの博覧強記と実行力に大いに期待しています。

(斎藤敦子)