シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5)マレーシア・ニューウェーヴ 「ムアラフ-改心」

2008/10/26

tiff08_05_01.jpg 歴代のディレクターの映画センスと努力で、最もうまくいっている部門が<アジアの風>だろう。ただし、コンペ作品のように事前にプレス用の試写がないので、期間中に作品を追いかけるのはなかなか難しく、今年も見逃してしまった作品が多かった。

 今年の収穫は、まずヤスミン・アハマドの「ムアラフ-改心」=写真=だった。アハマドはマレーシア・ニューウェーヴを代表する女性監督で、3年前に<アジアの風>で小特集が組まれている。新作の「ムアラフ」は、そのときの作品よりさらに人間を見る目に優しさがあった。主人公は、家計を助けるためにバーで働き始めるが、客に酒を飲まないように勧めているのがバレて首になる姉、ムスリム系の学校に通いながら、キリスト教の聖書を引用して教師に嫌われる妹、姉に密かに好意を寄せる妹の学校の教師の3人。マレー系、インド系、中国系の人々が暮らし、公用語を英語にして調和を図る多民族国家マレーシアの抱える、決して軽くはない問題が、さらりとユーモラスに描かれていて、アハマドの円熟を感じさせた。

tiff08_05_02.jpg 「火山高」や「オオカミの誘惑」で知られるキム・デギュンの「クロッシング 祈りの大地」は、栄養失調で結核になった身重の妻の薬を買うために脱北する父親(チャ・インピョ)と、後に残された息子の苦難を描いた作品で、キム監督が100人あまりの脱北者から取材して作り上げた北朝鮮のリアルな日常生活や、鬼気迫る収容所生活の様子に圧倒された。息子が可愛がっていた愛犬をついには食べざるを得なくなるほどの貧窮の描写に、前田哲のコンペ作品「ブタがいた教室」で活写された日本のいびつな"豊かさ"を連想させられた。「クロッシング」がコンペでなかったことを前田監督は喜ぶべきかもしれない。

 今年の最大の収穫は、何と言ってもキム・ギヨン監督のレトロスペクティヴだろう。デビュー作「陽山道」(55)から、韓国映画史上の最高傑作というべき「下女」(60)、「下女」をリメイクした「火女 '82」など6本の"女シリーズ"が集められ、"怪奇版増村保造"ともいうべきキム・ギヨン・ワールドの一端を垣間見ることができた。会場には青山真治監督や篠崎誠監督などの顔も見え、上映後は大いに盛り上がった。見た後で、今見たものの"奇怪さ"を誰かと確認したくなる監督なのだ。

 写真(下)はコンペ作品「ブタがいた教室」の記者会見で、主演の妻夫木聡さん(左)と前田哲監督。
(斎藤敦子)