シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5)韓国人作家の底力

2008/12/01

107.jpg 一時は日本の茶の間や映画館を席巻する勢いだった韓流ブームが凋落のきざしを見せている。韓国映画にお客が入らなくなり、配給会社が手を引いているという話もあるし、あれほど成功していたプサン映画祭も、かつての面影はないという噂も耳に入ってくる。韓国映画に何があったのかは専門家の分析に任せることにして、今回フィルメックスで見た韓国映画2本に、私はブームとはまったく違った地点にいる韓国人作家の底力を見た。

 1本は、特別招待作品の「夜と昼」(Night and Dayという海外向けにつけられた英語タイトルは"夜も昼も"と訳すべきだろう)で、今年のベルリン映画祭のコンペ作品である。監督のホン・サンスは、男女の恋愛をテーマに、人間の悲しさ、愚かさを独特のユーモアに包んで描くのに卓越した、私が最も注目する韓国人監督である。今回は、大麻問題で逮捕されそうになって、パリに逃避することになった中年の画家が、元恋人に再会したり、絵を勉強しに来た留学生の娘に恋をしたりする姿を描いたもの。パリの韓国人コミュニティーという狭い社会の中で、韓国男のマチズモ(男性優位)を封じられ、自分より年下の女たちに翻弄される中年男の姿には思わず微苦笑を誘われた。韓国の土を離れたことで、ホン・サンスの登場人物が本来持っているユーモラスな部分が、よりくっきりと表面に出てきていたように思われた。

 もう1本は、米国在住の韓国人ソヨン・キムの監督第2作で、コンペ作品の「木のない山」だ。主人公は母親の都合で幼い妹と共に伯母の家に預けられた6才の少女ジン。ブタの貯金箱が一杯になったら帰ってくるという母親の言葉を信じ、イナゴを獲っては売ってお金を貯め、大きな金を小銭に替えることを思いついて、貯金箱を一杯にするが、母親が帰って来ない。やがて伯母の家から祖父母の田舎の家に預けられることになり、祖父から冷たくあしらわれながらも、温かい祖母に受け入れられ、姉として成長していく。

 特にすばらしいのはドキュメンタリーと見紛うばかりの自然な演出だった。姉の方はキム監督がソウルの小学校を回り、妹はスタッフが孤児院を回って見つけたという。その二人の幼い少女を、"ドラマ性を廃したドラマ"の中に置き、自然な表情を引き出した手腕とセンスは卓越していて、林加奈子ディレクターの"今やドキュメンタリーやフィクションの線引きをしなくてもいい時期にきている"という言葉を体現するような作品だった。キム監督はアート畑の出身で、映画は映画学校ではなく、ご主人でもあるプロデューサーで映画作家のブラッドリー・ラスト・グレイ氏の撮影を手伝うことで実地に学んだという。韓国映画に今必要なのは、もしかしたら、キム監督のような、"外からの視線"なのかもしれない。

(齋藤敦子)

写真は、「木のない山」上映後の質疑応答の模様。ソヨン・キム監督(中央)、プロデューサーのブラドリー・ラスト・グレイ氏(右端)