シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)幻惑?が魅力か 「ねずみハーブ」

2008/12/02

1202-01.jpg 30日はコンペ部門でブラジルと中国、アルジェリアの3作品、世界の若者の現状を映し出す「Continent J(ジュニア)」部門でアフガニスタンの短編連作と、計4本を見た。

 ブラジルの「ねずみハーブ」はミステリアスで官能的なのだが、見る者を戸惑わせる。というか、どこか居心地を悪くさせながら、最後まで見続けさせる力を持った作品だ。
 突発的な出来事で出会った男と女は、互いに誠実な愛情を育てるのだが、次第に普通ではない関係に落ちていく。その関係にネズミが影を落とし始め、女は亡くなる。だが男は、ガイコツとなった女と、それまでと変わりなく暮らしていく...。
 これは本当の話? すべてが題名通り、ねずみハーブに幻惑された空想の世界なのか。
 ジュリオ・ブレッサン監督(62)は、男と女の関係が普通でないものにエスカレートするさまを執拗に描く。女に触れようとはしない男は、カメラで女に迫る。男の抑圧された本心が、ネズミの妄想を生んだのだろうか。一世代前の落ち着いた色調と男と女のファッションが時代をあいまいにし、見る者の疑念をさらに膨らませる。憎い演出だ。

 中国の「パーフェクト・ライフ」は、2人の女性の生きざまの違いを、フィクションとドキュメンタリーの双方の手法を使って鮮やかに対比させた作品。
 最初に登場する学生のリーは、父親が女性と失踪(しっそう)後、母親にも相手にされず、卒業を機に職のない北東部の村を出る。もう1人のジェニーは、10年前に離婚と窮乏から逃れて香港に移住した30代だ。ともに移住者として、就職にハンディを持つ。
 現実を直視せず、「幸せな結婚生活」を夢見るリーは、南部の都市深川にたどり着き、結局は平凡な結婚をする。一方のジェニーは、子ども2人を抱えて生きるために必死だ。常に前向きで、可能性があるものには挑戦するジェニー。ドキュメンタリーでとらえられた彼女は、どこか絵空事ぽいリーに比べて、格段の存在感がある。
 エミリー・タン監督(38)は、2人の女性の置かれている状況を簡潔に紹介した後、その後の生き方を2つの手法で描くことで、現実の中国に偏在している移住者の差別問題などを効果的にえぐり出している。2人を一度だけ、深川の商店街ですれ違わせることで、2つの手法の融合を図っていることも印象的だった。

 アルジェリアの「中国はいまだ遠い」はドキュメンタリー。1954年、フランス植民地からの独立戦争(アルジェリア戦争)が始まる。62年に独立するが3年後に軍がクーデターを起こし、89年まで独裁政治が続いた。その独立戦争時、小さな村のフランス人教師夫妻と行政区長が最初の民間犠牲者となった。マルク・ベンスマール監督(42)は、その村を訪れ、住民と学校、その児童たちをフィルムに収めた。
 作品は、現在と過去をバランス良く取り上げながら、アルジェリアの現実を、深い思い入れと否定の複雑な絡み合いの中で描き出している。
 タイトルの「中国はいまだ遠い」は、アルジェリアで「問題解決の道が遠い」ことを意味することわざのようなもの。共和制をとりながらも、1992年、軍のクーデターでイスラム原理主義政権が無効になり、イスラム過激派によるテロが続いているのが現状。多くの犠牲者を出して勝ち取った独立は本物なのか、も問われている。

 4本目はアフガニスタンの短編連作「カブールのこどもたち」を見た。
 首都カブールを舞台に、伝統音楽に取り組む13歳と14歳の兄弟、レンガ工場で働きながら夢を育てる13歳と11歳、真冬に車の洗車で生活費を稼ぐ子どもたち-など、5人の監督が5つのテーマ(各26分、計130分)で切り取り、アフガニスタンの子どもたちに降りかかっているストリートチルドレン化や過酷な労働などの問題点を明らかにしている。それぞれの冒頭では監督が製作意図を語っている。真冬の洗車には「bulbul(ブルブル)」のタイトル。車が来るとすかさず近付き、すぐ洗い始めて既成事実化するなど、子どもの側も必死。でも誰も泣き言は言わず、仕事はきっちりやり遂げる。やや恵まれた家庭の子どもたちも、音楽や読み聞かせに目的を持って真剣に取り組んでいるのが伝わってくる。
 この作品は、映画祭がかかわって、若者の働く姿などを通して、世界の今を写す鏡の役割も担わせようと始めたプロジェクトの成果の1つ。今年はブラジル、韓国、南アフリカ、ジンバブエなどがフィクションを発表したが、時間の関係で見ることができなかった。

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 週末は一足早いクリスマス・モードに乗せられ、人出がどっと増える。通りには到着した28日、イルミネーションが飾り付けられ、この時期特有の"マルシェ(出店)"も登場した。マルシェは1~3坪程度の三角屋根の木造小屋で、扱う商品はクリスマス用品の小物からお菓子、装身具、お香までとさまざま。ナントの中心ロータリー、パレ・ロワイヤルではライトアップされた噴水を囲んで、60近くのマルシェが肩を寄せ合うように並び、昨年に続いて大型のメリーゴーランドも登場していた。

 今年のナントは天候に恵まれず、到着日から3日連続で曇り時々小雨となっている。それにもかかわらず週末の29、30日は、子ども連れやカップルが歩道から車道にまであふれ出し、さながら歩行者天国のような込みよう。寒いだけに大人たちはホットワインを楽しんでいた。
 こちらでは物価上昇が止まらないのに加え、世界同時株安の影響で少しずつだが雇用不安も出てきているという。中心商店街も、ずっと続いていた店が変わっていたり、空き店舗の状態が散見されたりした。クリスマス・イルミネーションもどこか控えめで、デザインもパッとしていない。昨年に比べて街角で寄付を求める人が増えたのが気懸かりだ。

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 長年にわたる修復作業が完了したブルターニュ大公城では、新しい夜間照明を始めたと聞いたので、小雨の中、出掛けてみた。堀沿いの城壁には連続したリング状の柔らかい光線が映し出され、そこに別の細かい光線が重なって刻々と動くのだ。一転、城内は青白い光の束で、修復なった建物の壁面が幻想的に浮かび上っていた。

(桂直之)


写説上:コンペ作品上映の主会場「カトロザ」前に列を作る人たち
写説中:パレ・ロワイヤルに店開きしたマルシェ。週末とあって、小雨でも込み合った
写説下:ライトアップで幻想的に浮かび上がるブルターニュ大公城