シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)心の叫びを歌う"ペルシャ猫"

2009/05/16

20090516.jpg 映画祭2日目の14日から、いよいよ本格的な上映が始まりました。

 この日、ある視点部門のオープニング作品に選ばれたのは、日本でも『酔っぱらった馬の時間』や『亀も空を飛ぶ』が公開されているイランのバフマン・ゴバディ監督の『誰もペルシャ猫のことを知らない』です。"ペルシャ猫"とは、反イスラム的な文化が厳しく制限されているイランで、当局の目を盗んでロックやラップなどの音楽活動を続けているミュージシャンたちのこと。映画は、仲間を集めてバンドを組み、ロンドンで演奏しようとする3人の若者を主人公に、イランのアンダーグラウンドのロック・シーンをドキュメントしていきます。

 スタッフの中に、スパイ活動を理由に逮捕され、先ごろ減刑されて釈放されたロクサナ・サベリの名前があったので、おやと思ったのですが、調べてみたらサベリはゴバディの婚約者なのでした。

 ゴバディは、突然、主人公のカップルの乗った車が警官に停められ、愛犬を連れ去られてしまう(犬は不潔だから家の外に連れ出すことが禁止されている)というショッキングな場面を撮って、現体制の滑稽なまでに強圧的な統治を笑っているのですが、もともとクルド人という出自を持つ彼の強い批判精神が、なおさらサベリの活動に当局の注意をひいたのではないかと勘繰ってしまいました。

 けれども、警察はもとより、隣人や親たちの目をかいくぐり、即席にスタジオを作っては練習を続け、自力でコンサートを開こうとする姿を見ていると、歌で自分を表現したい人間の心の叫びを、為政者の力で抑えることが不可能なことは、この映画を見れば一目瞭然です。

 今年のカンヌは、昨年に引き続きコンペに日本映画がない寂しい年になりましたが、それでも、ある視点部門に是枝裕和監督の『空気人形』と、監督週間に諏訪敦彦監督がフランスの俳優イポリッド・ジラルドと共同監督した『ユキとニナ』の2本が出品されています。写真は、14日夜に正式上映された『空気人形』の上映の模様で、右から是枝裕和監督、主演の韓国の女優ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路の各氏です。人間の心を持ってしまった人形という難役を見事に演りこなし、場内から大きな拍手を受けたペ・ドゥナさんの目には涙が光っていました。

(齋藤敦子)