シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)話題のアジア作品続々

2009/05/18

090518.jpg 今年のカンヌは前半にアジア映画が集中しています。

 コンペ作品のトップバッターとして、13日にプレス上映が行われた中国の『スプリング・フィーバー』は、夫の浮気を疑った妻が人を雇って身辺を探らせると、夫が同性愛者であったことがわかり、男と男と女の奇妙な関係が始まるというストーリー。原題の"春風沈酔的晩上"とは、1945年に日本の憲兵に虐殺された中国人作家郁達夫の作品名から取られていて、内容的には関係がありませんが、主人公が恋人に一部を読んで聞かせる場面があります。

 監督のロウ・イエは3年前にコンペに出品した『天安門、恋人たち』の性描写を理由に当局から5年の活動停止を言い渡されており、この作品はフランスと香港の資本で製作、手持ちカメラによる全編ロケで撮られたデジタル作品で、当局の目を盗みながら撮影されたとのこと。この作品ももちろん中国国内では上映が禁止されています。

 3年前に『オールド・ボーイ』で審査員グランプリを獲得したパク・チャヌクの期待の新作『コウモリ』は、韓国映画で初めてハリウッド・メジャー(ユニヴァーサル)からの資本を受けて製作されたもので、出来上がる前から大きな注目を集めていました。ストーリーは、アフリカで発生した謎の伝染病の新薬を試すための人体実験に志願した韓国人神父(ソン・ガンホ)が、生命が助かるのと引き換えに吸血鬼になってしまうという、ちょっとホラー映画風。テーマは前作の『オールド・ボーイ』や『復讐者に憐みを』と同様、人間の執念ですが、物語が神父と彼の幼なじみで、不幸な結婚をした女との関係に話が移ると、パクの作品には珍しく、主人公の存在感が薄れ、テーマがぼやけてしまったのが惜しまれました。

 また16日には、ある視点部門でポン・ジュノの『母なる証明』が、監督週間でホン・サンスの『あなたがすべて知っているように』が上映され、韓国を代表する監督の映画が出そろいました。

 『母なる証明』は、殺人犯として逮捕された息子の無実を信じ、必死に真犯人を探し当てようとする母親の姿を描いたもので、母親を韓国を代表する名女優キム・ヘジャが、少し頭の弱い息子を兵役から復帰したばかりのウォンビンが演じ、これまでの二枚目のイメージをがらりと変えています。

 日本映画では、是枝裕和の『空気人形』に続いて、翌15日に諏訪敦彦がフランスの俳優イポリット・ジラルドと共同監督した『ユキとニナ』が監督週間で上映されました。写真は監督週間のテントで開かれた記者会見の模様で、右からイポリット・ジラルド、諏訪敦彦、通訳のカトリーヌ・カドゥの各氏です。

 『ユキとニナ』は、フランス人の父と日本人の母の間に生まれた少女ユキが、両親の離婚で、親友のニナと別れて日本に行くことになり、自分の世界が崩壊する危機を迎えるというもの。ユキを演じた日仏ハーフのノエ・サンペの繊細な演技に引き込まれました。

 また、監督週間では、14日の午後、黄金の馬車賞の授賞式が行われ、今年は日本の河瀬直美さんが8人目の受賞者に選ばれ、『火垂』の再編集版が記念上映されました。ジャン・ルノワールの名作の名をとったこの賞は、監督週間の母体であるフランス映画監督協会(SRF)が2002年に創設したもので、大胆さと独立精神にあふれ、革新的な作品を撮る世界の映画作家に与えられます。第1回はSRFの創設者の一人でもあるフランスの映画作家ジャック・ロジエが受賞、クリント・イーストウッド、デヴィッド・クローネンバーグ、ジム・ジャームッシュなど錚々たる監督たちが受賞しています。

(齋藤敦子)