シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(6)『資本主義:ある愛の物語』ワールド・プレミア

2009/09/12

090912Venezia09-Day6 027.jpg 黒澤シンポジウム、ジョン・ラセター率いるピクサー・チームの名誉金獅子賞授賞式と、行事が盛りだくさんだった中日6日の夜10時、トリを飾って、マイケル・ムーア期待の新作『資本主義:ある愛の物語』のワールド・プレミアが行われました。

 前作『シッコ』で、アメリカの保健医療政策を痛烈に批判したムーアの今度の矛先は資本主義。ムーアは大銀行家が権力者を傀儡化し、法律を自分達に有利に変えて、庶民の生活を苦しめている構図を、いつもの突撃レポーターの姿を借りて、笑いに包みながら暴いていきます。最後は、金融危機の際に、銀行に公的資金を注入する法案がどのようにして可決されたか、その資金=税金がどこに消えたのかのからくりに迫り、犯人を大銀行と特定して、ウォール街に"犯罪現場"を示す黄色いテープを巻いて終わります。ムーアは一部の大金持ちを利するだけの資本主義がいかに庶民を不幸にするかを訴え、アメリカ建国の理念に立ち返れと警鐘を鳴らしているのですが、いつものようにゲラゲラ笑って見ているうちに、その問題の大きさに、最後は笑いが止まり、背筋が寒くなってきてしまいました。

 公式上映に先だって午後1時から開かれた記者会見には、直前のマット・デイモンとソダーバーグ監督が顔を揃えた『インフォーマント!』をしのぐジャーナリストが会場を埋め、マイケル・ムーアがハリウッドスターの誰よりも人気者であることを証明していました。

 今年はコンペ作品だけで25本と、とても本数の多い年ですが、アメリカ映画はサプライズ作品がウェルナー・ヘルツォークの2本目のコンペ出品『息子よ、息子よ、何をした?』だったので、なんと7本になってしまいました。これは、先のインタビューでマルコ・ミュラーが語っていたように、量も質も多様性も、アメリカ映画の創造力が群を抜いている現状を反映したものといえるでしょう。実際、ジョン・ヒルコートはオーストラリア人ですし、デヴィッド・リンチが2作品をプロデュースしたウェルナー・ヘルツォークはドイツ人、また『シングル・マン』のトム・フォードは元グッチのデザイナーというように、国籍、出自を問わず、多様で多彩な才能を取り込んでいくアメリカ映画界の懐の深さを感じるセレクションになっています。

 写真は、会見後にサインを求める人々に囲まれるムーア監督です。

(齋藤敦子)