シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(7)フィリピン映画、コンペ初登場

2009/09/12

Venezia09-07.jpg 最終日の前日、2本目のサプライズ作品の公式上映が行われました。今年25本目のコンペ作品は、なんとフィリピンのブリヤンテ・メンドーサ監督の『ロラ』。前作『キナタイ』でカンヌの監督賞を受賞したばかりのメンドーサのヴェネチア初登場(フィリピン映画としてもコンペ初登場)は、本当にサプライズでした。実は、今年はコンペに中国映画が台湾の楊凡監督の『涙王子』と、香港の鄭保瑞監督の『意外』の2本しか入っていなかったので、サプライズ作品に大陸の作品を入れてバランスをとるだろうというのがもっぱらの噂でした。ところが、マルコ・ミュラーに質問をぶつけてみると、「中国ではないが、アジア映画」という返事。それでは近年台頭めざましいフィリピンか、あるいはマレーシア、シンガポールあたりかと予想はしていたのですが、まさかメンドーサ作品が1年に2本も国際映画祭にエントリーされるとは思いもよりませんでした。

 その新作の『ロラ』(ロラとはタガログ語で"おばあちゃん"という意味)は、これまでのメンドーサ作品同様、フィリピン社会の底辺が舞台。強盗殺人事件の被害者と加害者という正反対の立場に立たされた2人のおばあちゃんを主人公に、フィリピン社会の今にドキュメンタリーのように迫っていきます。一方は、稼ぎ手を殺されて葬式の費用も出せず、日々の生活にも困って途方に暮れ、他方は、路上で野菜を売りながら、なんとか示談にしようと奔走する(フィリピンでは驚くことに殺人事件でも示談に出来るようです)、二人の対照的な、けれども胸を打つおばあちゃんの姿に、『キナタイ』の過激な暴力描写に拒絶反応を起こしたジャーナリストにも、今回は好意的に受け入れられたようでした。

 今年、『TETSUO』や『よなよなペンギン』以外の"日本映画"がエントリーしているのを発見しました。それが短編コンペ部門に出品されたシンガポール人で早稲田大学に留学中のエドワード楊の『金魚』と、日系アメリカ人ディーン・ヤマダの『自転車』の2本です。両方とも、厳密には純粋な日本映画とはいえないまでも、日本人スタッフの協力で日本で撮影された、限りなく日本映画に近い作品でした。

 写真は、『自転車』の監督ディーン・ヤマダとスタッフ達。前列左が脚本の渋谷悠、中央がディーン・ヤマダ、右が主演の佐生有語の各氏、後列が(左端がヤマダ監督の奧様)スタッフを務めたカリフォルニア州バイオラ大学のヤマダ監督の教え子達。太平洋の東西に分かれた日米のスタッフがインターネットを使って製作を進めたという、まさに現代でしかありえないコラボレーションの成果です。若い渋谷さん、佐生さん共にアメリカで生活した経験があり、巧みな英語を使って二カ国の橋渡しをしているのを見ると、塚本晋也監督が『TETSUO』を英語で撮ったことと合わせて、今、日本映画が世界に顔を向けた新しい時代に入っていこうとしていることを改めて感じました。

(齋藤敦子)