シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(6完)アート系映画、絶滅の危惧

2009/10/26

TIFF297.jpg 25日の午後2時から授賞式が行われ、以下のような受賞作が発表されました。グランプリ、監督賞、男優賞の3賞を独占したのはブルガリアの『イースタン・プレイ』。監督のカメン・カレフはパリのFEMIS(フランスの国立映画学校)で学んだ俊英で、『イースタン・プレイ』は旧友のアーティスト、フリスト=フリストフの生き方をそのまま映画にした、いわゆるドキュ・ドラマです。実はフリストは最後の5、6カットの撮影を残して事故死してしまい、映画は未完で終わっているのですが、激変する東欧社会の中で苦悩する孤独なアーティストの姿を映し出した迫力と誠実さが高く評価されたようです。監督のカレフは、主人公との対比で、ネオナチ集団に入って暴動に参加する弟という架空の人物を設定し、ドラマを作ってはいるのですが、フリストが画面に登場するとドラマの虚構が浮き上がって見えるほど、彼の存在感は圧倒的でした。

 授賞式後の記者会見で、審査員長のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは、『イースタン・プレイ』の中でフリストの言う、"立ち上がる力はある、だが立っていられるだけの支えがない"という台詞を引き、せっかく映画祭で珠玉の作品を発見しても、多くの人に見てもらえなければ何もならない。東京が先頭に立って、受賞作を公開する機会を作って欲しいと訴えていました。 スーパーヒーローを主人公にしたバカげた映画に巨大な資本が投じられ、芸術としての映画が片隅に追いやられている、と、イニャリトゥが憂える映画界の現状については私もまったく同感ですが、日本の状況はイニャリトゥが思っている以上に深刻だと思います。映画祭でさえ、昼間の上映回には空席が目立つのですから、たとえ受賞作というお墨付きがあっても、劇場公開に観客が詰めかけるかといえば、そうはならないと思うのです。 実は私はアート系の映画の配給が低迷しているのは、映画館のシネコン化で単館ロードショー館が減り、作品を上映できるスクリーンが少なくなっているためだと思っていたのですが、会場で様々な人に会って話を聞くうちに、劇場側でも上映する映画がなくて困っているのだということがわかってきました。今回ワールド・シネマで上映された作品は、従来なら日本配給が決まって当然の秀作揃いですが、まだ1本も買い手がついていませんし、年に1、2本の超大作だけが大ヒットし、ハリウッド映画でさえ中ヒット、小ヒットがない、いわゆる"1本かぶり"現象が続いていて、このままでいけば、まさにイニャリトゥの言葉通り、映画は絶滅危惧種になってしまうでしょう。

 映画館に観客を呼び戻すにはどうしたからいいのか、それとも映画は20世紀と共に滅んでいく宿命なのか。問題が大きすぎて、解決法がどこにあるのかさえわからないような状況ですが、映画と映画人の出会いの場である映画祭が、映画の未来を考えるための最良の機会であることだけは確かだと思います。

 上の写真は、グランプリ・監督賞・男優賞の3賞を独占した『イースタン・プレイ』のカメン・カレフ監督

 ◇受賞結果

 コンペティション部門 東京サクラグランプリ:『イースタン・プレイ』監督カメン・カレフ

審査員特別賞:『激情』監督セバスチャン・コルデロ

最優秀監督賞:カメン・カレフ、『イースタン・プレイ』

最優秀女優賞:ジュリー・ガイエ、『エイト・タイムズ・アップ』監督シャビ・モリア

最優秀男優賞:フリスト・フリストフ、『イースタン・プレイ』

最優秀芸術貢献賞:該当なし

観客賞:『少年トロツキー』監督ジェイコブ・ティアニー

アジアの風部門

最優秀アジア映画賞:『旅人』監督ウニー・ルコント

次点:『私は太陽を見た』監督マフスン・クルムズギュル

特別功労賞:ヤスミン・モハマド

日本映画・ある視点部門

作品賞:『ライブテープ』監督松江哲明


TIF241.jpg審査員特別賞のセバスチャン・コルデロ監督と主演のマルチナ・ガルシアさん

TIF290.jpg最優秀女優賞のジュリー・ガイエさん

TIFF278.jpg観客賞のジェイコブ・ティアニー監督とプロデューサーの父ケヴィン・ティアニーさん

TIFF155.jpg日本映画・ある視点部門 作品賞の松江哲明監督

TIFF142.jpgアジアの風部門 最優秀アジア映画賞のウニー・ルコント監督

TIFF370.jpg総評を述べる審査員長アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督

(齋藤敦子)