シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)矢田部ディレクターに聞く 「多くの作品の受け皿に」

2009/10/17

TIFF2009001_UP.jpg 第22回東京国際映画祭が10月17日から開幕します。今年は、渋谷の会場をやめ、六本木のTOHOシネマズとシネマートの2カ所に上映会場を集中させるなど、多少の変化はあったものの、エコロジーのテーマは昨年を踏襲、主要部門も例年通りです。


 今年はまず、映画祭の華、コンペティション部門のプログラミング・ディレクター、矢田部吉彦さんに作品選定のご苦労や、今年の見所をうかがいました。

―矢田部さんが東京映画祭に入られた経緯をおうかがいしたいんですが?

 矢田部「私がいわゆる映画祭業界に入ったのはフランス映画祭からなんですが、そのときのスタッフが同時に東京国際(TIFF)もやっていて、"手伝ってみない?"と言われて、引っ張ってもらったのが2002年でした。それで、第15回から参加し、最初は運営、その後、作品選定のチームに入って、日本映画ある視点という部門を角川さんが立ち上げたときに、そこの選定を担当することになり、2年間日本映画の選定をやり、3年前から、田中千世子さんの後を継いで、コンペのプログラミングをやるようになったんです」

―選定の際の"矢田部基準"は?

 矢田部「それは、むしろ周りの方のご意見をうかがいたいところです。表面的なことを言いますと、なるべく多くの国から、なるべく多くのジャンル、なるべく多くの監督を、という風に、ヴァラエティを揃えたいと思っています。もちろん作品のクオリティを一番大事に。とても悩むのがプレミア性です。コンペティションのステイタスは、いかに沢山のワールドプレミア作品を揃えられるかが1つの判断基準になっているんですが、一方で、お客さんにとっては、その作品がプレミアかどうかというのは関係がなく、目の前の作品が面白ければ、カンヌですでに上映されていようが、関係ないのではないかと思う。その2つでいつも悩んでいます。3年前からワールド・シネマという部門を作って、ここで、海外の映画祭で評価を受けながら日本公開が決まっていない作品を見せ、コンペティションには、無名で、海外で評価されていなくても、クオリティのある作品を揃え、コンペとワールド・シネマの両輪で見せていけたらと思っています」

―ワールド・シネマのセレクションも矢田部さんですか?

 矢田部「はい、私がやっています。以前から、コンペに入らないアジア映画はアジアの風という受け皿があるのに、アジア以外の作品にはそういう受け皿がなかったので、まずはそういう部門を作りたいと計画していたんです。ようやく3年前に企画が通って、ワールド・シネマが出来ました。基本的にはコンペを選ぶ過程の中で、これはコンペ、これはワールド・シネマという具合に、私が中心になって分けています」

―途中で、どこかの映画祭で受賞したりすると、必然的にコンペからワールド・シネマに移さざるを得ない?

 矢田部「そうなんです。今年も一応、海外のメジャーな映画祭のコンペティションに出ている作品は避けようとはしているんです。では中小の映画祭で賞をとってしまったら、それはもうしょうがない、ということで割り切ってはいます」

―10月というのも難しい時期ですよね。カンヌ、ヴェネチアは終わり、トロントも終わり、次の年の映画祭を狙っている準備期間みたいな時ですから。

 矢田部「10月末になると2月のベルリンがだんだん見えて来て、映画祭的には年度末かな、という感じの時期です。ヨーロッパには9月末にサンセバスチャン映画祭もありますし、"そこに出さないでうちに出して"と言うには、きちんと戦略を立てないと難しいですね。今年はコンペについてはワールドプレミア5本、インターナショナルプレミア5本、アジアプレミア5本ということで、プレミア面から言ったら、まずまずかなと思っています」

―今年の見所は?

 矢田部「後から見返してみると、失業とか不況とか、わりと今日的なテーマの作品が多いなという印象です。これは結果論で、偶然なのか必然なのかよくわからないんですが。国としてはスペイン語圏がスペイン2本と南米2本の計4本で、スペイン語圏の作品が注目だと思っています」

―今、ちょうど羽田と成田のハブ空港化問題がマスコミを賑わせていますが、成田が後発の仁川にハブを取られてしまったように、TIFFも後発の釜山映画祭に"ハブ"を持って行かれた感があります。その辺を建て直さなければいけないご苦労もあると思いますね。今年はいかがでしたか?

 矢田部「日本における洋画の興行が低迷しているという状況がありますが、その点はむしろ映画祭にとっては追い風というか、映画祭の果たす役割が大きくなっている気がしています。ワールドセールスの会社には、日本のマーケットのポテンシャリティはわかっている、なのに日本は全然(洋画を)買わなくなっちゃった、だったら、ちょっと映画祭で見せて、ということで、各会社を回ると、去年より今年の方が、これをTIFFでぜひ、というような、向こうからのやる気が違う。そこはがんばらなければいけない部分なのかなと思います」

―逆に、日本映画は興収があがっていますが、映画らしい映画が当たっているかというと、そこに問題があると思うんです。コンペで日本映画をどう扱うかについて、ご苦労があるのでは?

 矢田部「そこのところは非常に話しにくいんですが、確かにコンペティションの日本映画については、とてもとても大きな問題です。大きな会社を回っていて、なんでコンペにうちの大作を出さなければいけないのかという反応をいただくことは、やっぱりあるんです。特別招待作品で華々しくやればいいので、コンペはいいですと言われてしまう」

―むしろコンペは嫌われるわけですか?

 矢田部「嫌われるとまでは思いたくないですけど」

―コンペに出して賞を獲らなかった場合のことを先に考えてしまう?

 矢田部「それもあるみたいです。でも、同じ人がベルリンのコンペに入って喜んでいるのを見たことがあるので、"何だ、ベルリンならいいのか"と思って、それはもう現実を突きつけられましたね。東京は特別招待作品があるから、日本のお客さんのためにコンペに入れる必要はない、ただし、海外はコンペがメインなので、ベルリンなどはコンペに入ればそれはそれでニュースになるのでよろしい、というような構造が日本の大きな映画会社の中に出来てしまっている。これを覆すのはなかなか容易ではないです」

―今年のコンペの日本映画は1本だけですが、日本映画枠というのはあるんでしょうか?カンヌやヴェネチアだと自国の映画は4本くらい入れられますよね。

 矢田部「コンペが20本以上あれば、そうしたいとは思うんですが、東京は15本なので、2本が限度かなと思っています。今年は他国の作品でいいのがありましたし、監督辻仁成さん、主演アントニオ猪木さんなら1本で勝負できるかなと思いまして。個人的に辻さんの『ACACIA』をとても気に入っていて、今回コンペに入れることができてとても嬉しいです。
日本映画について言えば、特別招待作品と日本映画ある視点の違いがわからないという指摘を受けることがよくありました。今年の日本映画ある視点は、かなりインディペンデントというか、若手寄りの作品を選定しました。これがどう受け入れられるか、今年の反応を見ながら来年を考えていきたいと思います」

(10月14日、六本木ヒルズの東京映画祭事務局にて) 

(齋藤敦子)