シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)流行に終わらせない文化交流を アジアの風部門

2009/10/22

TIFF091021_1.jpg 19日の午後、今年の審査員の記者会見が行われました。今年の審査員長は、『アモーレス・ペロス』で2000年に東京映画祭グランプリと監督賞を受賞したアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督、昨年のTIFFで『アンナと過ごした4日間』が審査員特別賞を受賞したポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督、ゴダール作品や『TOKYO!』のレオス・カラックス編などで知られるフランスの撮影監督キャロリーヌ・シャンプティエさん、ホ・ジノ監督の『春の日は過ぎゆく』やパク・チャヌク監督の『オールドボーイ』に出演した韓国の俳優ユ・ジテさん、アテネフランセ文化センターのディレクターで映画美学校代表の松本正道さんの6名です。

 イニャリトゥ監督は『バベル』の撮影でも何度も来日したことのある知日家ですが、日本を神秘的かつ複雑で、理解したと思ったら実は何もわかってなかったことがわかる国と形容。『バベル』の撮影を日本で行ったときのエピソードを引き、"ファックユー"に相当する罵り言葉が日本語にないと知って驚いたり、役所広司演じる父親が菊地凛子演じる娘に"アイ・ラブ・ユー"と言う場面で、日本人のスタッフから「日本の親は子供に"愛してる"と言わない」と教えられて驚き、その話を日本人の友人にしたら、「日本では言葉より態度の方がずっと大きな意味を持っているのだ」と言われて、そのときだけ少し日本がわかったような気がした、と話していました。

TIFF091021_2.jpg 18日の夜、アジアの風部門で、今年6月に亡くなった韓国のユ・ヒョンモク監督の代表作『誤発弾』の追悼上映と、『誤発弾』で撮影監督を務めた金学成の人生をたどる田中文人さんのドキュメンタリー『2つの名前を持つ男、キャメラマン金学成・金井成一の足跡』が上映されました。金学成は韓国で生まれ、女優だった姉の薦めで日本に渡り、専修大学卒業後、新興キネマに入社してカメラマンとなりました。同僚だった名撮影監督の岡崎宏三さんとは終生に渡る親交があり、岡崎さんから彼の話を聞いた田中さんがドキュメンタリーを思い立ったもの。実際に製作に入る直前に岡崎さんが亡くなってしまうのですが、遺志を継ぐ形で完成されました。金学成の前妻が、申相玉と共に北朝鮮に拉致された名女優崔銀姫だったことや、戦前・戦中だけでなく、戦後もずっと日韓両国の映画界に交流があった事実に驚くと共に、日韓の映画史に隠された様々な逸話が詰まった、興味深いドキュメンタリーでした。すでに山形映画祭と韓国の全州映画祭で上映されていて、全州映画祭では、上映後に若い韓国人女性から、"こういう映画人がいたことを今までまったく知らなかったし、この映画を作ったのが韓国人ではなく日本人であることが恥ずかしく嬉しい"と言われたというエピソードを田中さんが紹介してくれました。

 韓流という名で大流行したものの、今は一時の勢いがなくなった韓国映画ですが、韓流の奥にある韓国映画の深さを知り、流行に終わらせない文化交流を続けていかねばならないと思います。

 写真上は『2つの名前を持つ男』上映後のディスカッションの模様で、左から日本映画・ある視点に最新作『ライブテープ』を出品した松江哲明監督、撮影の長田勇市カメラマン、監督でTIFFスタッフの"2つの顔を持つ"田中文人さんです。

 写真下は審査員記者会見の模様で、左から松本正道、シャンプティエ、イニャリトゥ、スコリモフスキ、ユ・ジテ、原田美枝子の各氏です。

(齋藤敦子)