シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5)再生の物語『ストーリーズ』

2009/10/24

 映画祭も今日を入れて残すところあと2日。コンペティションの作品の上映が終わり、明日の授賞式を待つばかりとなりました。矢田部ディレクターとのインタビューにもあった通り、洋画の不振が映画祭にとっての追い風になったのか、今年はレベルがぐんと上がり、面白い新作を何本も見られたことは私にとっても大きな収穫でした。

TIFF2009099.jpg 私が好きだったのは、スペインのマリオ・イグレシアス監督の『ストーリーズ』。主人公はスペイン、ガリシア地方の小さな町に住む主婦ロサリオ。原因不明の不眠症に悩む彼女がカウンセラーを訪れるところから物語が始まります。カウンセラーは、過去に死産で息子を失ったことが今も彼女の心に影を落としていることを察知し、今の状態から一歩踏み出すために、趣味で書いている小説を出版社に持ち込んでみるよう勧めます。彼女の小説は編集者に酷評されてしまうのですが、出版社に行く途中、道に迷っているときに発見した建物の穴に思い切って入ることで、彼女の人生に転機が訪れるのです。映画は、彼女が書いた、心の奥に潜む過去の痛み、喪失感、漠然とした不安をテーマにした短編小説を織り込みながら、不眠症を克服するまでの心の動きを追っていきます。

 主人公のロサリオも、ロサリオの短編の登場人物たちもすべて女性、それを男性のイグレシアス監督が撮ることについて聞いてみると、この作品だけでなく、以前から自分自身の考えを女性に語らせることが好きであったことと、登場人物の設定に大きなスペースを設け、そこに女優達からのアイデアを盛り込んで、物語をふくらませていったのだということでした。

 フランスの『エイト・タイムズ・アップ』もまた、一人の女性が人生を建て直すまでの物語。主人公はカウンセリングを受けながら定職を探している女性エルサ。少しエキセントリックな性格が災いして面接に通ることができず、子守とバスの清掃のバイトで当座の生活はしのいでいるものの、ついには家賃を溜めてアパートから追い出され、車上生活者となってしまいます。彼女には10歳になる息子がいるのですが、親権は元夫にとられているうえ、2週間に1度認められている息子と過ごす週末もたびたびすっぽかすため、息子からの信用もゼロ。彼女のアパートの隣人マチューも失業中で、真夜中に突然ベッドを直し始めるような変人。彼もまたアパートを追い出され、森林公園でキャンプ生活を始めることに。普通の人から見れば性格破綻者である似たもの同士の二人が、自分自身の問題に折り合いをつけ、互いを理解しあうところで映画は終わります。ちなみに、題名は"七転び八起き"のこと。映画の中で、面接官に信条を聞かれたときの答えとして用意する格言の一つなのですが、"八起きは前向きだが、七転びは失敗ばかりしているように聞こえる"と、エルサに却下されてしまいます。

 上の写真は、21日にムービーカフェで行われた『ストーリーズ』の記者会見の模様で、左がマリオ・イグレシアス監督、右が主演のコンセプシオン・ゴンザレスさんです。六本木ヒルズの屋上展望台に行ってきたばかりの二人は、東京の街の大きさに驚いていました。

TIFF2009131.jpg 右の写真は、23日にアジアの風で上映されたキム・ギヨン監督の『玄界灘は知っている』のディスカッションの模様。左から石坂健治ディレクター、脚本家の高橋洋さん、映画監督の青山真治さん。キム・ギヨンは、一昨年『高麗葬』がアジアの風で上映されたのがきっかけとなって、大きな注目を集めるようになった韓国の名匠。石坂ディレクターは国際交流基金時代からキム・ギヨンを紹介してきた方ですが、深夜まで会場に残って熱心にディスカッションに聞き入る観客を見ると、映画祭という場を得たことは、映画を紹介する側にとっても見る側にとっても、大きかったのではないかと思いました。

(齋藤敦子)