シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)世界のキタノ「振り子理論」を強調

2010/05/19

 映画祭が折り返しを迎えた17日、北野武監督の『アウトレイジ』の正式上映が行われました。物語は、巨大暴力団山王会の傘下のヤクザ組織の抗争を描いたもの。"アウトレイジ"(極悪非道)という題名通り、非情で残酷な殺し合いの続くギャング映画で、『キッズ・リターン』や『菊次郎の夏』といったポエティックな作品で"キタノ"を知っていたカンヌの観客には驚きの作品。私は一足早く、16日の夕方のプレス用の上映で見たのですが、残酷な描写に目を覆う人はいたものの、恐れていたよりもずっと反応がよく、ところどころで笑いが起こり、特に、石橋蓮司演じる親分のパートは大受けでした。

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20100519_04_02.jpg 写真上は17日の午後に行われた記者会見の模様で、振り子の揺れのように、なるべくひどく人を痛めつけることを考えれば、その反動で、今度は人を沢山笑わせることができる、という"振り子理論"を話す監督。
写真下は、会場前で、『アウトレイジ』の招待券を求めるファン達。

 日本映画は他に開幕早々の14日に、ある視点部門で中田秀夫の『チャットルーム』が上映されています。『リング』などの作品で中田監督の名前はすでに海外でも知られていて、"ジャパニーズ・ホラー"の旗手がどんな作品を撮ったのか興味を持って見に来た人も多かったようです。ただ、今回の『チャットルーム』は、インターネットという仮想空間を舞台に、現在のイギリスの若者達の姿を描いたイギリス人エンダ・ウォルシュの戯曲をイギリスの映画会社が製作したものなので、正確に言えば"ジャパニーズ・ホラー"でもないし、日本映画でもありません。

 物語は、ウィリアムという青年がネット上に開いたチャットルームに4人の男女が集まり、身の周りの話題を"チャット"しているうちに、家庭内で問題を抱えるウィリアムが、一番ひ弱なジムに目を付け、心理的に追い詰め、ついには自殺に追い込もうとする、というもの。中田監督は、仮想空間はカラフルに、現実はモノトーンに色分けし、演出も確実で、とても日本人が撮ったとは思えない、完成度の高い仕上がりになっていました。主人公のウィリアムを演じたのは、『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』で注目されたイギリスの新鋭アーロン・ジョンソンです。

 さて、日本映画は上記の2本だけだと思っていたら、会場で安藤紘平さんにばったり。安藤さんは、早稲田大学大学院の国際情報通信研究科で映画を教えていて、なんと安藤教授の研究室で制作した作品が21日に監督週間で上映されるというのです。その作品は、マレーシアのウー・ミンジン監督の『タイガー・ファクトリー』。安藤さんの教え子のエドモンド楊が企画から編集に至るまでを手がけ、監督を楊の友人のウー・ミンジンが手がけた、マレーシアと日本の合作で、安藤さんはスーパーバイザーを務めているとのこと。エドモンド楊はこの欄でも紹介した、昨年のヴェネチア映画祭で上映された『金魚』の監督でもあり、安藤さんとはヴェネチア以来の再会でした。

(齋藤敦子)