シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5)ゴダール不在の意味

2010/05/19

 北野武監督の『アウトレイジ』の正式上映があった17日は、北野監督の記者会見、ジャン=リュック・ゴダールの新作『フィルム・ソーシャリズム(社会主義映画)』の上映と記者会見、コンペ外招待のスティーヴン・フリアーズの『タマラ・ドリュー』の上映があるうえ、夜はアッバス・キアロスタミの『本物そっくりの偽物』のプレス上映もあるという、何かを犠牲にしなければとても全部は回りきれない、映画ファンにとって残酷な1日。朝8時半のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの『ビウティフル』の上映前に、ローザンヌのシネマテークの元館長で、ゴダールと親しいフレディ・ビュアシュさんに、ゴダールは本当にカンヌに来るのか聞いてみたら、「来ないよ」との返事だったので、記者会見はキャンセルされそうだとわかり、不謹慎ながら、ちょっとホッとしました。

 ゴダールがカンヌに現れなかったことは、新作の上映よりニュースで大きく取り上げられ、会場のプレスルームにカメラを持ったクルーが来て、"ゴダールの不在"をどう思うか、仕事中のジャーナリストにインタビューしていました。フランスの新聞によれば、ゴダールから映画祭と映画製作会社にファックスが来て、"ギリシャと同じような問題"で来られない旨、連絡があったそうです。

20100519_05_01.jpg 写真は、18日の昼に行われたアッバス・キアロスタミの『本物そっくり』の記者会見で、左から主演のジュリエット・ビノシュ、アッバス・キアロスタミ監督、ペルシャ語通訳の女性、ビノシュの相手役を務めたオペラ歌手のウィリアム・シーメルの各氏。

 映画は、"本物そっくり"という新刊書のプロモーションのために、トスカーナ地方に講演に来たイギリス人作家が、現地で画廊を経営するフランス人の女性と出会い、彼女の車でトスカーナの村を巡る小旅行に出るうち、二人の関係が虚実ないまぜになって展開していきます。

 記者会見を始める前に、キアロスタミから3月にイランで逮捕されたジャファール・パナヒを即刻釈放するよう訴えるアピールがありました。パナヒはキアロスタミの助監督だった人で、キアロスタミが脚本を書いた『白い風船』でカンヌの新人賞カメラ・ドールを受賞しています。イランの暗い部分に切り込むパナヒの作風が災いし、イラン国内では10年前から作品が上映禁止にされていたのですが、3月1日に自宅にいるところ突然逮捕され、現在、刑務所内でハンガーストライキをしているといいます。
 逮捕の理由は、撮影中の映画の内容ではないかと言われているのですが、キアロスタミによれば、映画は出来てもいないし、どんな内容かもわからないとのこと。カンヌが当初パナヒを審査員に選んでいたことは前のレポートでも触れましたが、開会式で壇上の審査員席の中にパナヒの席を設け、彼の不在の意味を改めて全世界にアピールしています。

(齋藤敦子)