シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(7)緊迫感の中で上映 「アウトロー」

2010/05/23

100523_01.jpg 映画祭の最終日直前の21日、ラシッド・ブシャレブ監督の『アウトロー(法の外で)』の正式上映がありました。開催前から議論の的になっている、問題の作品だけあって、当日はセキュリティが強化され、主会場へのミネラルウォーターや中味のわからない容器の持ち込みは禁止。セキュリティチェックで全部取り上げられ、廃棄されました。ルクセンブルグの友人などは、捨てられるよりはと、その場でミネラルウォーターを全部飲み干したと言っていました。

 『アウトロー』とは、フランスの植民地政策で先祖代々の土地をとられた家族の3兄弟の運命を1920年代から1962年のアルジェリア独立の年まで描いた作品。1945年に独立を求めるアルジェリア人のデモ隊にフランス軍が発砲したセティフの虐殺事件が出てくるのですが、フランス人にも犠牲者が出ているため、アルジェリアの視点だけで事件を描くのはフェアではないと、地元セーヌ=マリティーヌ県の代議士から抗議の声があがり、今度は逆に左派から、映画を見てもいないのに抗議をするのはフェアではないと反論があって、フランス国内で大きな論争になっていました。

 映画は、事件自体はさらりと流し、事件で逮捕され、刑務所内でオルグされてFLN(アルジェリア民族解放戦線)の闘士となる次男(サミー・ブアジラ)、第二次大戦とインドシナ戦争に従軍し、北ベトナム軍の捕虜となるも生還、弟のために地下活動に加わる長男(ロシュディ・ゼム)、上の二人とは距離を取り、興行師となってボクシングでアルジェリア人の世界チャンピオンを作ることを夢みる三男(ジャメル・ドブーズ)のそれぞれの生き方を中心に描いていました。ブシャレブ監督は、ジャン=ピエール・メルヴィルの『影の軍隊』を意識したと語っていましたが、地下組織対秘密警察の非情な戦いは、犯罪組織とFBIの抗争を描いた『アンタッチャブル』のようなアメリカのギャング映画に近いように思えました。

 写真上は当日の模様で、主会場の横の通りにずらりと駐車した機動隊の車。機動隊だけでなく、街角のあちこちに制服警官が立って警戒していましたが、実際にはアルジェリア戦争の復員兵と家族のデモ行進があった他に目立った抗議行動はなく、テレビのニュースでは、厳重な警戒は"空騒ぎ"に終わったとシェークスピアをもじって報じていました

100523_02.jpg  翌日、監督週間の上映を待っているときに年配のフランス人女性と話をしたところ、彼女のご主人がアルジェリア戦争に従軍した方で、映画の噂を聞いて本当に不快に思っていると言うのです。彼女自身はまだ映画を見ていないので、公開されたら映画館に行くと言っていましたが、半世紀近い時間が経っても、いまだにアルジェリア戦争を軽々に扱えない、問題の根深さを思い知った気がしました。

  写真下は、21日の午後、監督週間の短編部門で上映された平林勇監督『SHIKASHA』のスタッフ。『SHIKASHA』は、コンペの『アウトレイジ』、ある視点の『チャットルーム』、監督週間の長編『タイガー・ファクトリー』に続く、4本目の日本映画です。上映前に行われた監督紹介では、奥様の出産のために急遽帰国された平林監督に代わって、プロデューサーの吉上由香さんと音楽担当の渡邊崇さんが挨拶されました。

 

(齋藤敦子)