シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)物議醸した非商業的な「黒い羊」

2010/09/06

 去年は『ビデオクラシー』の予告篇放送拒否事件があって揺れた映画祭ですが、今年もちょっとした物議を醸す事件があったようです。その映画が、イタリア映画のトップバッターとしてコンペに登場したアスカニオ・セレスティーニの『黒い羊』。

 母親が精神疾患で死んだあと、家族に顧みられず、祖母に育てられていたニコラ少年が、兄たちが起こした事件の責任を負わされて修道女が管理する精神病の療養所へ入れられ、そこで"治療"を受けさせられて、かえって精神障害を発症してしまう、というようなストーリー。初監督兼主演のセレスティーニが舞台で何百回も演じてきたニコラの物語を映画化したもので、題名の"黒い羊" とは"のけ者"という意味。フランスのル・モンド紙は"ゴーゴリの<狂人日記>と同じ種類の傑作"と評していました。

 この映画がなぜイタリアで物議を醸したのかといえば、精神病を扱った内容ではなく、新人監督の非商業的な作品が、ベテランで評価の高いプピ・アヴァティの新作を押しのけてコンペに選ばれたからだそう。2008年の金融恐慌に端を発する世界恐慌で、ご多分に漏れずイタリアでも文化に割かれる予算が大幅に削られ、映画の製作本数も激減しました。

 映画祭をショーケースとして役立てようとする業界側は、アヴァティのような安定感のある作品が選ばれ、興行に繋がっていくことを望んだのでしょうが、映画祭はセレスティーニの作品を選ぶことによって、商業的な成功より、芸術性とオリジナリティの重要さを暗黙の内に示したのだといえるでしょう。

220906_01.jpg さて、『ノルウェイの森』の公式上映の翌日、2本目の日本映画、和田淳監督の短編アニメ『春のしくみ』がオリゾンティ部門で他の短編作品と合わせて上映されました。和田監督は1980年生まれの30歳。春が来て子供達やカエルやカメなどの動物たちがユーモラスに動き出す様(和田監督によれば、"春のうずうず感")を綴った4分のアニメーションで、ところどころで会場から笑いが起こっていました。写真は上映後にクラブ・オリゾンティで開かれた記者会見の模様で、右から2人目が和田淳監督です。

(齋藤敦子)