シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(7)スコセッシの思い 「エリアへの手紙」

2010/09/12

 今年は日本映画の取材が多く、コンペ以外の部門の映画を見る機会が少なかったのが残念でした。特に楽しみにしていたイタリアのコメディ映画の特集には、ほとんど行けず、唯一の例外が開催日前日に見たディノ・リージの『女の香り』で、名優ヴィットリオ・ガスマンの物故10周年を記念しての上映でした。

Venezia2010_013.jpg 『女の香り』は、『セント・オブ・ウーマン』の題名でハリウッドでリメイクされ、ガスマンが演じた盲目の退役軍人役をアル・パチーノが演じていました。2本を見比べると、プロットの流れに納めるために枝葉を切ってシンプル化していくハリウッドと、面白いものは何でも取り入れ、夾雑物を整理せず、パワーで押し切ってしまうイタリアの映画作りの違いが見えてきて興味深いと共に、一見傲慢で、ちょっとエッチで、実は純情で愛すべき軍人を演じたガスマンの見事な演技を堪能しました。

 実は、今年の映画祭で私が最も感動した映画は、特別招待作品として上映されたマーティン・スコセッシ&ケント・ジョーンズ共同監督の『エリアへの手紙』でした。

 エリアとはエリア・カザンのこと。カザンが1998年にアカデミー名誉賞を受けたとき、会場はスタンディングで栄誉を称える人たちの中に、カザンが赤狩り時代に仲間を裏切った行為を許さず、拍手を拒否して席に座り続けた人たちがいて、異様な雰囲気に包まれました。そのときに壇上でカザンを支えていたのがスコセッシでした。当時テレビ中継でその模様を見たとき、スコセッシは必ずカザンについての映画を作るだろうと私は確信したのですが、そのときのスコセッシの無念の思いがこの映画に結実したような気がしました。

 『エリアへの手紙』は、同じ移民の子として生まれ、同じ映画の道に進んだスコセッシが、カザンの人生をたどりながら作品を解説していくという内容ですが、その中でスコセッシ自身は自分の心情を正直に吐露しています。特に『エデンの東』に描かれた善い兄アロンと悪い弟キャルの関係を、自分と兄の関係に引き写して語るところなど、胸に痛く響いてきました。長年親交がありながら、面と向かって言えなかったカザンへの感謝を、スコセッシが声を詰まらせながら言うエンディングには特に感動しました。

 写真は、最終日11日昼に開かれた3Dアワードの記者会見で、左から、今年審査員長を務めた清水崇監督、日本映画研究家のロベルタ・ノヴィエリ、映画祭ディレクターのマルコ・ミュラーの各氏です。今年の3Dアワードは、ジェームズ・キャメロンの『アバター』と、ディーン・デュボワ&クリス・サンダース共同監督の3Dアニメ『ヒックとドラゴン』が受賞しました。

(齋藤敦子)