シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5) 独裁政権下の風景 レルマン監督の『隠れた瞳』

2010/10/31

tokyo101031_02.jpgtoykyo101031_01.jpg 今年の映画祭の収穫は、むしろ小粒な映画の方にありました。アルゼンチンのディエゴ・レルマン監督の『隠れた瞳』は、軍政末期の厳格なエリート高校が舞台。新任の女教師が生徒の一人を好きになり、喫煙者を摘発するという名目でストーカーまがいの監視を始めるが、その奇妙な性癖を上司に知られてしまい...というストーリー。日本公開されている長編デビュー作『ある日、突然』のオフビートなタッチとは作風をがらりと変え、独裁政権下の監視社会を背景にしたマルティン・コアンの原作をきっちり映画化したものです。面白かったのは、女教師が好きになる生徒が、ハンサムでもカッコよくもない、普通の男の子だったこと。会見で、その点を質問してみると、"金髪で青い目"というような典型的な美男子にはしたくなかった、とのことでした。

 1976年3月24日という軍事クーデタが起きた日に生まれ、ご両親が反政府活動家だったため、少年時代は隠れ家から隠れ家へと移動する、常に"逃げ続けている"日々を過ごしたというレルマン監督ですが、原作のテーマが堅苦しかったので、映画自体が堅苦しくならないように描きたかった、とのことでした。生徒の前では厳格であろうとしながら、家庭に帰るとナイーブなもろさを垣間見せる女教師を見事に演じたフリエタ・シルベルベルクさんの透明感のある美しさも印象的でした。写真(上)は記者会見後のフォトセッションでのフリエタ・シルベルベルクさんとディエゴ・レルマン監督です。

 アメリカの新鋭ショーン・クー監督の『ビューティフル・ボーイ』は、突然息子が乱射事件を起こして自殺してしまい、残された夫婦がどうやって事件後を生きていくかを描いたもの。一見幸せそうだった夫婦が、マスコミや世間の好奇心によって崩壊寸前にまで追い詰められ、世間から孤立することで、徐々に夫婦関係を修復していく様を丁寧に描いています。クー監督は2007年にヴァージニア工科大で起こった銃乱射事件に触発されたとのことで、実際に関係者に取材したのかどうかうかがってみると、やはり事件が事件だけに当事者に接触することは難しかったとのこと。撮影に入る前に、ある雑誌に載ったコロンバイン高校銃乱射事件の犯人の親にオプラ・ウィンフリーがインタビューした記事を読んで、どんな子供でも親にとっては"ビューティフル・ボーイ"である、という自分の考えは間違ってなかったと思ったそうです。映画は全編デジタルで撮影された低予算の小品ですが、『クィーン』のブレア首相や『フロスト×ニクソン』のデヴィッド・フロスト役で知られるマイケル・シーンと、クローネンバーグの『ヒストリー・オブ・バイオレンス』で注目されたマリア・ベロがすばらしい演技を披露し、見応えのある感動作になっていました。写真(下)は記者会見後のフォトセッションの模様。クー監督に年齢を尋ねたら、なんと40歳との答え。30代前半かと思っていたので、びっくりしました。>

(齋藤敦子)