シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)羨ましい韓国映画界の潜在的パワー

2010/11/25

 市山尚三ディレクターによれば、日本で起こった韓流ブームは大量の日本マネーを韓国映画界に流入させたものの、それが必ずしもいい結果を生まなかったとのことでした。結局、韓流ブームはテレビで有名になったスターやアイドルに一部の熱狂的なファンを生み出したけれども、本来の意味での韓国映画ファンを作るところまで行かずに終わってしまったと言えるかもしれません。一時の勢いはないと言われる韓国映画界ですが、フィルメックスで見た2本のコンペ作品からは、若い韓国映画の侮れない底力が感じられました。

221125_01.jpg キム・ゴク&キム・ソン共同監督の『アンチ・ガス・スキン』はヴェネチア映画祭のオリゾンティ部門でも上映された作品。ガスマスクをつけた顔の見えない連続殺人鬼が横行するソウルで、自殺志願者の集団を率いる女子高生、自分をスーパーヒーローと信じてトレーニングに励む警官、当選したら殺害するという脅迫に怯える保守党の市長候補者、恋人を殺害された米軍兵士の4人を主人公に、現代の韓国が抱える病理を描いたものです。上の写真は22日夜に行われた上映後の質疑応答の模様。キム兄弟は双子で、キム・ゴク監督が新作を編集中のため、キム・ソン監督だけが来日し、質問に答えていました。

 キム監督によれば、初めはガスマスクをつけた連続殺人鬼を主人公に考えていたのが、次第に殺人鬼に怯える人々にテーマが変わってきたのだとか。題名に"スキン(肌)"という言葉を入れたのは、不安や殺気といったものが、肌にある無数の穴(毛穴)を通して体内に取り入れられたり、排出されたりしているというイメージから。ラストシーンで、どこからか発生した毒ガスで街が包まれ、人々が次々に倒れていくのですが、その毒ガスも人々が生み出したものかもしれない、という強烈な風刺精神にみなぎっていました。

 キム・ギドク監督の助監督だったチャン・チョルス監督の長編デビュー作『ビー・デビル』は今年のカンヌ映画祭批評家週間で上映され、プチョン国際ファンタスティック映画祭でグランプリ他3賞を受賞しました。発端は、ソウルで銀行員をしている30代の女性ヘウォンが、若い後輩と問題を起こして休暇をとらされたこと。幼なじみのボクシクに会いに、久しぶりに故郷の離島に帰ってみると、ボクシクは夫からは虐待され、年配の女性達からも奴隷のように扱われるという悲惨な有様。ソウルに連れてってくれというボクシクの願いを断り、傍観者を決め込むヘウォン。虐待に耐えきれなくなったボクシクが娘を連れて逃げようとしたところを夫に見つかり、ついに彼女の怒りが爆発する事件が起こってしまいます。

 スプラッターホラーのスタイルを借りて、何事にも関わりを持とうとしない現代人の傍観主義を告発した作品で、チャン・チョルス監督によれば、実際に韓国で起こったいくつかの事件を合わせて構想したのだとか。その一つが、十数人の高校生に性的暴行を受けていた女子高生が、次第に加害者のように扱われ、本当の加害者である高校生達が無罪放免された事件だそうで、これはイ・チャンドン監督の『詩』の中に出てくる事件とも似通っているように思いました(もしかしたら同じ事件かもしれません)。若手のチャン監督とベテランのイ監督が同じ社会の病理に切り込み、それぞれの手法で作品に昇華させていく、その創造力と問題意識の高さ、それを可能にする韓国映画界の潜在的なパワーを羨ましく思いました。下の写真は23日夜の上映前に挨拶するチャン・チョルス監督です。

221125_02.jpg

(齋藤敦子)