シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)心の叫び響く「川の抱擁」

2010/11/26

 11月23日深夜、成田を発って、今年も西フランスの古都ナントで開かれている3大陸映画祭(11月23-30日)にやってきた。16度目の訪問になる。

091129map.jpg アジア、アフリカ、中南米の3大陸に絞った作品だけを提供し続けるユニークな映画祭も、今年で32回となる。今年はコンペティション部門9作品(フィクション7、ドキュメンタリー2)、招待作10本のほか、「中国第6世代を見る」12本、11カ国の「政治的な映画」12本、セネガルのジブリル・ジオップ・マンベティ監督とウズベキスタンのアリ・ハムラーエフ監督の業績を振り返るなどの特集が組まれ、盛りだくさんの内容だ。会期中、3つの映画館の5スクリーンを中心に119本が上映される。

 成田から約19時間の旅。時差がマイナス8時間のためパリ着は22日早朝4時過ぎ。6時25分発のナント行き新幹線(TGV)で24日午前9時前に到着。同日朝から映画を見始めた。初日はコンペ部門のコロンビア、招待作のタイ、特集の中国、セネガル、ウズベキスタンと多彩な内容とお国柄の作品5本を見た。

 コンペ部門の「川の抱擁」(2010年、一部1972年)は、コロンビアの西部から北に向かって流れ、カリブ海に注ぐマグダレーナ川が舞台にしたドキュメンタリー。マグダレーナ川は深い流れで人間を死に追いやるが、川辺の人々は、土俗的宗教の畏れも手伝って、それを受け入れながら生きている。

 ニコラ・リンコン・ギレ監督(37)は、そんな状況を叙情性も加味(特に宗教的なシーンでの静けさ)しながら描くが、息子と兄弟を失った女性の率直な声を契機に、宗教的なものの枠を超えた「心の叫び」が見る者の心を刺す。

 中国第6世代特集ではチャン・ジウ監督「西洋ナシ」(2010年)を見た。若い夫婦は村に新居を建築中だったが、資金不足で完成させられないうちに、妻が出て行ってしまう。夫は妻が好きだった西洋ナシを収穫するたびに彼女を思い出し、とうとう彼女に会いに行く。彼女は町の遊技場で働いていた。収穫した西洋ナシを籠いっぱいにして毎日、自転車で通う夫。彼を嫌がるでもない妻。彼の遊び仲間が妻を相手に選ぶことが重なっても、黙々と西洋ナシを持って通い続ける。この2人に明日はあるのだろうか?

 中国の第6世代とは、チェン・カイコー(「黄色い大地」「さらば、わが愛-覇王別姫」「北京ヴァイオリン」)、チャン・イーモウ(「紅いコーリャン」「初恋のきた道」「HERO」)らに代表される第5世代(北京電影学院一期生、教条主義を廃し、力強い映像で衝撃を与えた)に続く、1960年代生まれ以降を指す。第5世代に比べると、より個人的で、地方都市を舞台に現代中国の若者の不安と焦燥感を描き出している。過ぎ去った時代よりも、今を生きる人間模様に強い関心を示していて、第5世代への異議申し立てが出発点と言えなくもない。

 「西洋ナシ」では、村でもモダンな住宅が求められるものの、現実には実現する可能性が少ない中で、都市生活者でない若い2人の生きざまの危うさが描かれる。ナシを届ける以外、もっと実入りのある仕事に就くわけでもない夫。妻も夫と縁を切って自立しようとしているわけでもない。この視点はまさに都市生活者そのものなのだが...。妻が妊娠し、ラストシーンは切られたナシの木を見詰めながら、赤ちゃんをあやす夫の姿が映し出される。少なくともナシを届ける必要性はなくなったようだ。

 都市生活者として"失格"であったとしても、お互いを思い遣る気持ちだけはなくさなかった。起伏の少ない展開にもかかわらず、静かな眼差しで描き切ったところが良かった。

 招待作の「ありふれた歴史」(2009年)は、交通事故で下半身マヒになった少年と、若い男性看護師を中心に、少年の父親との関係も描きながら、根源的な「生」に迫ろうとした意欲作。タイのアノーチャ・マイ監督(34)は、少年と父親を含む家族が「誰もが魂の抜けたような」と看護師に嘆かせる中で、実はそうではないことを根気よく"証明"していく。少年は看護師によって心が開放されるが、そこから宇宙と人間との関係にまで発展、ラストは帝王切開で誕生する赤ん坊へとつながる。人間を楽観的に信じるのか、その逆なのかは見る人に宿題として残された。視覚的映像は新鮮で圧倒させたが、やや意識が先行しすぎたようにも感じられた。


091129-01.jpg看護師は少年の心を開放する(「ありふれた歴史」より)
 ウズベキスタンのアリ・ハムラーエフ監督(73)特集では「7発目の銃弾」(1972年)を見た。1920年代、中央アジアもソビエト政権下に置かれてはいたものの、反革命派との抗争が続いていた。彼らを一掃すべく民兵隊長が単身で反革命派の懐に飛び込む。タイトルとなった7発目の銃弾は、隊長がもしもの時にと帽子に隠し持っていた銃弾のこと。回転式拳銃を撃ち果たしていたが、反革命派のリーダーを、この1発で仕留める。男気のある隊長の活躍ぶりはハリウッドのウエスタン並み。中央アジアの広大な自然、馬を使った攻防など、政治的背景を知らなくとも十分に楽しめた。

  セネガルのジブリル・ジオップ・マンベティ監督の短編「正直者」(1994年)は2日に見る予定のデビュー作「コントラス・シティ」(1969年)などと一緒に紹介する。

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  新体制となって2年目、今後の方向性も含めて節目となる年だ。23日が祝日だったことから例年より1日早く到着、プログラムの進行も少し変わって、24日が実質のスタート日。例年のにぎわいを予想していたら、意外に静かなのには驚いた。コンペ作を上映するカトロザ2は6割の入り。初めてのことだ。大型ポスターの掲示はなく、赤いフラッグだけがメインストリートや広場になびいていた。

091129-01.jpg紅葉をバックにした映画祭の赤いフラッグ
 今年のポスターはナントを象徴するロワール川を囲んで3大陸の主要都市がコラージュされている。ピラミッドやタージマハールなどの伝統的な建造物もあるが、大半は新しい高層ビル群が取り上げられている。東京は隅田川沿いのアサヒビールの金色のオブジェ付近だ。

091129-01.jpg第32回のポスター

 ポスターをベースにした上映開始時の映像はもっと象徴的だ。メイン会場のカトロザを出てきた人物が、ロワール川を望むと、水色の川面に次々と3大陸の都市が浮かびあるのだ。過去より新しいものへ-は、映画祭が抱える課題とも重なり合うように感じた。
(桂 直之)