シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)王座の重圧 「法王誕生」

2011/05/16

 映画祭が折り返しを迎える土曜日の夕方、今年のカンヌ最大の目玉である『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』の特別上映が行われ、レッドカーペットを歩くジョニー・デップとペネローペ・クルスを一目見ようと、大勢のファンが会場前に詰めかけました。
この週末にかけてフランスの天気は下り坂で、午後には雷を伴う夕立に見舞われたカンヌですが、主役の二人がレッドカーペットに登場する頃にはすっかり晴れ、深夜には恒例の花火大会も無事行われて、映画祭を盛り上げました。

 ここまでにコンペティションで上映された映画は8本。なかで私が好きだったのは、ナンニ・モレッティの『法王誕生』です。原題の"Habemus papam" はラテン語で、バチカンのバルコニーで新しい法王を紹介するときに必ず使われる言葉です。
映画は、法王が亡くなり、コンクラーベ(法王選挙)が行われるところから始まります。
現実のバチカンには法王という最高権力をめぐる様々な欲望が渦巻いているでしょうが、モレッティの枢機卿達は、"私が選ばれないように"と必死に神に祈り、一番ぼんやりしていたメルヴィル枢機卿(ミシェル・ピコリ)が貧乏くじ(?)を引いてしまいます。
ところが、いざバルコニーで"Habemus papam"が宣言された途端、新法王は玉座の重みに耐えかねて、逃げ出してしまうのです。

20110516_01.jpg 写真は、記者会見のときのナンニ・モレッティとミシェル・ピコリ。メルヴィル枢機卿とは、もちろんフランスの名匠ジャン=ピエール・メルヴィルにちなむ名前(メルヴィル自身はこの名を<白鯨>のハーマン・メルヴィルから取っています)。
現在85歳のピコリには60年以上にわたる映画のキャリアがあり、もちろんメルヴィルの映画にも出演している、映画界の生きる伝説のような人。
その彼を演出した感想を聞かれたモレッティは、"ピコリのすばらしいところは、すぐに私達のやり方に合わせてくれ、撮影現場に親密で、熱い関係を作り出してしまうこと。
彼のまなざし、動き、笑顔、そのすべてが映画にプラスの効果をもたらしてくれた。
彼がいなければ、きっと悲しい映画になっていただろう"と手放しで賞賛していました。

 今年のコンペ作品には日本映画の2本とトルコのヌリ・ビルゲ=ジェイランを除き、アジア映画が1本もない寂しい年であることは既にお伝えしました。
特に中国映画のエントリーがなかったことは中国人ジャーナリストにとって大いに不満だったようですが、その埋め合わせなのか、ピーター・チャンの新作『武侠』の特別上映がありました。

 『武侠』は清朝末期、雲南省の山奥の村で、雑貨屋に押し入った二人組の強盗を、村に住む紙漉職人が運良く退治してしまいます。
ところが、事件を調査しに来た検察官(金城武)は、科学的な現場検証を行った結果、実は二人組がお尋ね者の凶悪犯で、しがない紙漉職人(ドニー・イェン)の正体が、悪名高い強盗団の親分(ジミー・ウォング)の息子であることを暴いてしまう、というストーリー。
もちろんドニー・イェンの武術指導による、すばらしいアクション・シーンが見所ですが、面白かったのは金城武演じる検察官の描き方で、証拠を集めて推理を重ねていくところは今テレビで大流行のCSI(科学捜査班)シリーズのよう、漢方に精通していて、血液の流れや神経などの体の内部の映像が出てくるところは<Dr.HOUSE>のようで、こういった新しい流行をいち早く映画に取り入れてしまうところが、いかにも香港映画だなと感心しました。

(齋藤敦子)