シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5)賞獲得有力の「ツリー・オブ・ライフ」の評価

2011/05/18

 映画祭が後半に入った16日の月曜日、今年のパルム・ドール候補ナンバーワン、テレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』の上映がありました。
テレンス・マリックは『天国の日々』で1979年に監督賞を獲っていますが、ハリウッド映画界に嫌気がさして故郷のテキサスに帰り、半ば隠遁生活を送っているうちに、作品の評価がどんどん高まっていったという伝説的な人物です。
特に、日没直前の"マジック・アワー"と呼ばれる太陽が絶妙な光を放つ時間帯だけを使って、名撮影監督の故ネストール・アルメンドロスが撮りあげた『天国の日々』の見事な映像は、世界中の映画ファン、映画関係者から高く評価されています。

 実は『ツリー・オブ・ライフ』は去年のカンヌにエントリーが決まっていたのですが、結局完成が間に合わず、今年に回されたもの。カンヌがコンペの枠を空けて1年待ったほどの作品なのだから、と前評判は上々。
前日、友人のジャーナリストから"明日は大変だぞ"と忠告を受けていた通り、いつもは朝寝坊のプレスもこの日だけは早起きしたようで、8時半の上映開始30分前には主会場のリュミエール・ホールがほぼ満席になってしまいました。

 映画は、1950年代のテキサスに暮らす家族、特に父親(ブラッド・ピット)とマリック自身を思わせる息子との関係を、宇宙の誕生から現在、そして未来へと続いていく"生命の樹"の一部として捉えたもの。
哲学教授でもあるマリックらしい壮大なテーマの作品でしたが、普通の映画の範疇に入らない、詩的で思索的な描き方に途惑う人も多く、評価は賛否両論にはっきり別れてしまいました。

20110518_01.jpg 写真は『ツリー・オブ・ライフ』記者会見のブラッド・ピットとジェシカ・チャスティン。映画のプロデューサーも兼ねたピットは、カンヌに現れなかったテレンス・マリックに代わって、ユーモアを交えながら記者の質問に答え、最後まで残ってサインをするサービスぶり。大スターとは思えない、気さくな人でした。

 日曜日の午後、ある視点部門の上映を待っているときに、私が日本人だと知ったトルコの女性ジャーナリストから声を掛けられました。
話を聞くと、彼女は1999年にトルコ北西部のイズミットという町で1万6千人が亡くなったM7.4の地震が起きたときに、2か月間ボランティアに行ったことがあるのだそうです。そのときの悲惨な体験に比べ、日本人は逆境のときにも人間の尊厳を世界に示して、本当に素晴らしいと賞賛してくれました。
トルコは日本と同じ地震大国なので、日本の震災が身近に感じられたのだと思います。私自身は特に何をしているわけでもないので、おもはゆく思いましたが、この場を借りて被災地の皆さんに彼女の賞賛の言葉をお伝えしておきます。

(齋藤敦子)