シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(6)メディアに迫るソーシャル・ネットワーク革命

2011/05/20

20110520.jpg 本来なら、大本命の『ツリー・オブ・ライフ』の登場で一気に盛り上がるはずのカンヌでしたが、土曜の深夜、IMFのトップで、来年の大統領選の最有力候補といわれるドミニク・ストロス=カーン(愛称DSK)がニューヨークのホテルで部屋を掃除に来たメイドをレイプしようとして逮捕され、フランス中がひっくり返るような大騒ぎになりました。月曜には憔悴したDSKがニューヨークの法廷で女性判事から"逃亡の怖れあり"(ケネディ空港で離陸直前のパリ行きの機内で逮捕されたため)として(百万ドルの保釈金を積んでも)保釈が拒否される映像がニュース・チャンネルで繰り返し流され、映画祭の会場でもテレビの前に人だかりが出来るほど。
 月曜からメディアの話題はすべてDSKの事件で、火曜の朝刊一面も、『ツリー・オブ・ライフ』のブラピに代わってDSK一色。『ツリー・オブ・ライフ』があまりに強力なので、他の作品が別の日の上映を希望したため、通常なら1日2本上映されるコンペ作品が、月曜は1本だけになってしまったという、いわくがあるのですが、そんな配慮も吹き飛んでしまいました。

 私が驚いたのは、DSKの逮捕が最初にフランスに伝わったのが一般人のツイッターだったという事実です。東日本大震災のときも、テレビや新聞といったマスコミに代わってツイッターが大きな威力を発揮したのはご存知の通り。事件の報道があってから、映画祭の会場でもスマートフォンでニュースをチェックしている人達をあちこちで見かけ、今は情報伝達の流れが、量も質も方向も、まったく変わってしまったことを肌で感じます。

  "チュニジアへのオマージュ"として特別上映されたムラド・ベン・チェイクの『もう怖れない』を見たときも同じ感想を持ちました。この映画は、今年1月、ベン=アリ大統領の圧政に抗議する人々のデモによって大統領が辞任に追い込まれた、いわゆるジャスミン革命についてのドキュメンタリーで、若者が中心になって起こした抗議運動がFacebookを使って組織されたため、ソーシャル・ネットワークが起こした初めての革命とも言われています。

 映画の中でも、町の壁に"サンキューFacebook" と書かれた落書きが出てきたりするのですが、私が面白いと思ったのは、これまでニュースとは現場にカメラマンや記者が派遣されて取材するものだったのに、デジカメやスマートフォンを誰もが携帯するようになった今、偶然事件のそばにいた普通の人、あるいは事件に関わる当事者自身がニュースを発信する時代なったのだということでした。新聞やテレビといったマスコミは報道のやり方や考え方を全面的に改革する必要がある、メディアのソーシャル・ネットワーク革命が今そこに迫っている、いや、もう起こってしまったのかもしれません。

 写真は、映画祭会場のテレビの前に集まり、ニューヨークの法廷でDSKの保釈が却下されるときの中継映像を見る人々です。

(齋藤敦子)