シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(9)日本の若手監督育成へ交流支援を

2011/05/24

 今年は、若手の登竜門である短編コンペとシネフォンダシオン部門でも日本映画と日本に関連する映画が上映されました。

CIMG1348.JPG 1本は、短編コンペ部門で上映された田崎恵美(めぐみ)監督の『ふたつのウーテル』。母親が違う姉と弟の出会いを描いた15分の作品。姉弟の複雑な感情に正面から向き合い、きちんと描き出そうとしているところが魅力的な小品でした。田崎さんは1987年生まれの24歳。早稲田大学の映画研究会に所属し、自主映画作りの現場で映画を学んだそうで、若いながら、すでに短編2本、長編2本を撮っているという"ベテラン"です。

 昨年の東京フィルメックスのレポートで市山尚三ディレクターにインタビューした際にも話題になった通り、日本映画の課題の1つは若手の育成。今年は2本の日本映画がコンペ入りするという画期的な年でしたが、日本映画界の現状は決して明るいものではありません。市山ディレクターの話にあったように、河瀬直美監督を追って世界に出て行く若手がいないことが、人材の厚い中国や韓国に大きく差をつけられているところです。田崎さんのように、きっかけを掴んだ若い映画作家が、この先も順調に伸びていくにはどうすればいいのかを、日本映画界全体の問題として考えていかなければならないと思います。

CIMG1662.JPG もう1本は、シネフォンダシオン部門で上映されたナタナエル・カルトンさんの『スウとウチカワ』で、東京に住む70代の老人ウチカワとミャンマー人の不法滞在者の妻スウを主人公にした11分の短編。監督のカルトンさんは東京生まれ。お父さんがパティシエで、東池袋とアビニョンとパリで育ち、ニューヨーク大学ティッシュ・スクールで映画を学んだという変わり種です。日本映画を知ったのは実はフランスに帰国してからなのだそうで、初めは溝口健二や黒澤明といったクラシックを、最近では黒沢清や是枝裕和の映画を見ているとか。この作品のテーマは、日本の新聞で読んだ不法滞在者の記事に感銘を受けて決めたとのこと。この後もまた東京で映画を撮る予定だそうです。

 2年前にヴェネチア映画祭で日系アメリカ人ディーン・ヤマダ監督が東京で撮った『自転車』が短編コンペ部門に出品されていたのも記憶に新しく、カンヌでも10年前にデヴィッド・グリーンスパン監督がカリフォルニアで撮った日本映画『おはぎ』が短編グランプリを獲りました。これからも日本で映画を撮ろうとする若い映画監督がどんどん出てくることでしょう。
国と国との交流は、政治や外交で行うことより、映画を始め、アニメや漫画、音楽といった大衆文化によることの方がずっと広く、深く、温かく、浸透すると思います。聞くところによると、数年前にカンヌで発表された日仏映画合作協定は、日本側の対応の遅れで、いまだに締結に至っておらず、フランスで映画を撮りたい日本の映画人の足かせになっているそうです。カトリーヌ・カドゥ監督の『クロサワの道』を見るまでもなく、黒澤映画が世界中のどれほど多くの人々に日本を知るきっかけを与えたかは明らか。日本政府には映画を通じた文化交流の大切さに目を向け、もっと積極的に取り組んでもらいたいと切に願います。

写真上は田崎恵美さん、今年中に30分の中編を撮る予定とか。
写真下はナタナエル・カルトンさんで、『ドラゴンボールZ』を見て育ったという好青年です。

(齋藤敦子)