シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)自由という名の孤独 マックィーン監督の「恥」

2011/09/06

20110906_01.jpg 映画祭が折り返しを迎えた5日の日曜日に、見ることの喜びを感じる映画に出会いました。それが、イギリスのスティーヴ・マックィーン監督の『恥』です。

 スティーヴ・マックィーンは、かの有名な俳優と同姓同名ですが、アフリカ系イギリス人のビジュアル・アーティストで、数年前にビエンナーレのイギリス館で彼の作品を見たことがあります。映画監督としては、2008年に監督第1作の『ハンガー』がカンヌ映画祭のある視点に出品され、見事カメラ・ドールを受賞。

 『恥』はそれに続く2本目の監督作で、主演は『ハンガー』でも主人公の、北アイルランドの刑務所内でハンガーストライキを行い、死亡したIRAメンバー、ボビー・サンズを演じていたマイケル・ファスベンダーです。

 『恥』の舞台はニューヨーク。リッチな独身生活を謳歌する男(マイケル・ファスベンダー)が、実はセックスマニアで、完璧なルックスと肉体で、街で拾った女性と、あるいはプロの娼婦とセックス漬けの毎日を送っていたところ、歌手で自殺癖のある妹(ケイリー・マリガン)が突然やってきて自宅に居候するようになってから、彼のセックス・ライフに狂いが生じていく...、というストーリーです。

 『ハンガー』の主人公が刑務所に閉じ込められ、あらゆる自由を奪われた男とすれば、『恥』の主人公は正反対に、経済的にも肉体的にも満たされた、自由な男です。ところが彼はセックスを通してしか他者と交わることが出来ず、唯一愛情を交わすことの出来る妹とは傷つけあってしまうために一緒にいることが出来ない。
 
 完全に自由に見えた彼の世界は実は孤独で不毛な世界であり、一見、自由な彼こそ"不自由な"男であった、というのが映画のテーマで、それをまさに美術品のような映像と編集で完璧な作品に仕上げていました。もしこの作品が金獅子賞を逃すことがあっても、『危険な方法』のユング役と合わせて、今年のヴェネチアを圧倒したマイケル・ファスベンダーの男優賞は固いと思います。

 写真上は記者会見のマイケル・ファスベンダー(左)とスティーヴ・マックィーン監督。この欄の2008年のカンヌ映画祭の写真と比較すると、随分貫禄がついてきたなと感じました。

 写真下は、『恥』の公式上映と同じ4日に、修復されたニコラス・レイ監督作品『我々はもう家に帰れない』の上映の模様で、左でマイクを持っているのがディレクターのマルコ・ミュラー、1人おいて右の赤いドレスの女性がレイ夫人のスーザン・レイです。

20110906_02.jpg 『我々はもう家に帰れない』は、1971年にニコラス・レイが教授に就任したニューヨーク州立大学で、映画学科の学生たちと共同で製作した作品。1973年にカンヌ映画祭で上映されていますが、79年にレイが亡くなるまで、手を加え続けていたという最後の作品でもあります。今回はニコラス・レイ財団とヴェネチア映画祭などが中心となって修復したもので、レイの実験精神と70年代のラディカルな空気がいっぱいに詰まった作品でした。

(齋藤敦子)