シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)若い人に映画を/矢田部吉彦プログラミング・ディレクターに聞く

2011/10/21

tokyo2011_01.jpg●"命"という切り口
-東京国際映画祭(以下、TIFF)は5月のカンヌ映画祭で、震災への支援に感謝するARIGATOナイトを開催しましたが、今年のTIFFには何か震災の影響はありましたか?
矢田部:"いい影響"というと語弊がありますが、応募作品が非常に増えました。例年5月から公募を開始し、検討対象作品というのは800本くらいなんですが、今年は1000本くらいになりまして、それだけ日本に対する関心が高まったというか、応援の意味もあると思います。それから、震災が映画の中に反映されている作品が幾つかあって、心に響きました。

-震災や福島の問題は、ナチュラルTIFFのテーマとも重なりますね。
矢田部:今までのナチュラルTIFFは"自然と人間との関わり"をテーマに掲げていたんですが、今年は、そこに、これは言葉を選びますが、"命"という切り口を設けてみました。それから、チェルノブイリを扱った『失われた大地』という作品も、これは今年本当に見てもらいと思って入れました。

-では、今年のコンペ作品について。去年のインタビューでは、大粒化を図っているというお話をうかがいましたが、今年は去年より、もう少し大粒になった感じがします。
矢田部:まさにご指摘の通り、去年の路線をもう1歩進めてみたというのが今年で、秋の世界の新作をいち早くTIFFに持って来れるようにしたいと思ったのと、有名監督の作品を意識して選びました。欧米の作品を東京でワールドプレミア上映するというのは、まだまだ難しい。これは認めざるをえないんですが、せめてトロントでワールドプレミアした作品を、その直後に東京でアジアンプレミア、というような流れを何本か作ってみたいなと思ったんです。それがセドリック・カーンの『より良き人生』、ロドリゴ・ガルシアの『アルバート・ノッブス』、マイケル・ウィンターボトムの『トリシュナ』だったわけです。

-去年は大粒化を図ったわりに、さくらゴールド賞受賞作がまだ日本公開されていないという問題があります。その『僕の心の奥の文法』は決して悪い映画ではないけれど、あのくらいの粒の大きさだと、よほど集客力のあるスターがいなければ日本公開が難しいという現実がある。大粒化はいいけれど、粒の大きさが難しい段階に入ったような機がしますが。
矢田部:去年、主要な賞をとったのが『サラの鍵』と『僕の心の奥の文法』と新藤兼人監督の『1枚のハガキ』でした。『サラの鍵』については公開に持って行きやすい内容だったし、監督賞、観客賞をとって、そのまま配給が決まったのはいいパターンだったと思うんですけど、『文法』の場合は、やはり映画祭映画というか、商業映画ではないので...。

-見れば面白いけれど、見てもらうためのとば口をどうするかという問題がありますね。映画祭が受賞作の公開を援助するというお話は去年うかがいましたが、それでも難しい問題が残ります。
矢田部:だからといって、公開されやすそうな作品を中心に選べば、それはまたぶれることになってしまうので。

-本末転倒ですしね。
矢田部:相変わらず、いろんなジレンマの中で選んでます。

●1人の作家に向き合う
-カメン・カレフ、エラン・コリリンといった、以前さくらゴールドを受賞した監督の新作が入っていませんね。
矢田部:映画祭が1人の作家にきちんと付き合っていくというのは必要だと思っていまして、実はカメン・カレフの『アイランド』に関してはものすごく議論しました。僕は、あれは偉大なる失敗作だと思っています。彼が『ソフィアの夜明け』の路線で縮こまってしまうのではなく、ああいう大胆なチャレンジをしたことは評価していて、ワールドシネマでやろうかと本当に悩んだんですけれども、最終的にはごめんなさいをしたんです。

-『迷子の警察音楽隊』のエラン・コリリンの新作は面白かったですよ。
矢田部:コリリンの映画は別の理由があり、ワールドセールスの都合で持ってこれなかったんです。

-ただし、サッソン・ガーベイさんは『ガザを飛ぶブタ』に登場しますね、代わりにと言うのも変ですけど。
矢田部:スピリッツは引き継いでいますね(笑)。ガーベイさんはイスラエル人ですが、パレスチナ人の役で、彼が主演男優賞をとっちゃうんじゃないかと。脚本もいいですし。

-『迷子の警察音楽隊』ではエジプト人の役でしたよね。何でもできちゃう人ですね。
矢田部:彼はあの地域の見えない壁を越える人ですね。

-今年の日本映画は、選択が難しかったですか。
矢田部:正直、難しかったです。本当は2本入れたかったんですけれど、今年はヨーロッパ映画が強かったんで、アジア映画も少なくなり、日本映画が1本ということも残念なんですが、若手といってもいい沖田修一監督が、役所広司と小栗旬を迎えて撮ったコメディということなので、1本で勝負できるかなと思いました。

去年の『1枚のハガキ』と『海炭市叙景』という2本の最強の組み合わせは、去年の時点で"こんないいことなかなかないぞ"と思ってたんですが、やっぱりあそこまで揃えるのはまだまだ楽ではないですね。

●コンペとステータス
-今年のヴェネチアは日本映画ががんばっていたし、震災があって日本映画はこれからだと思うのに、TIFFには日本映画がなかなか出て来ません。それは時期が合わないのか、それとも、ずらしているのか。
矢田部:その両方でしょうね。これは映画に限らず、スポーツでも何でもそうですけど、人って海外での評価の方が喜ばれがちですよね。それは心理としてはあると思いますし、ただ、それはそれとして、まだまだTIFFのコンペに出すことがステータスにつながるんだとか、その後の公開のはずみになるんだとか、そういったものがアピールしきれてないのかなと思いますね。これは本当に忸怩たる思いですけど。

-日本映画はもっと自国の映画祭に協力した方がいいと思うんですけど。
矢田部:『1枚のハガキ』は新藤監督がどうしてもTIFFのコンペでとおっしゃってくださったんです。実は配給側は夏に公開を予定していて、TIFFに出すと公開が延びてしまうので、新藤監督でなかったら映画祭で上映できなかったかなという風にも思います。それは配給会社としては当然だと思うんです。じゃあ、正月に公開される映画をTIFFのコンペでとなると、お披露目はプサン映画祭にしたい、となる。プサンを越えるものをこちらが提供しなきゃいけないんでしょうけど、なかなかそこを出しきれていないようです。

●ドキドキものの『メカス×ゲリン往復書簡』
-さっき矢田部さんがおっしゃった、"TIFFで秋の新作をいち早く"というイメージが定着すると日本映画も出しやすいような気がするんですが、そういう流れを作るのは1年や2年で出来ることではないので、がんばっていただきたいと思います。では、ワールドシネマ部門について。
矢田部:一昨年までは映画祭で受賞した作品が日本の配給会社になかなか買われなかったのが、今年になって、ベルリンのグランプリが決まったし、カンヌの主要各賞は買われてるし、ということで、逆に言うと、そういった冠作品が減りました。日本の洋画興行界にとってはいいニュースだと思うんですけれども。

-洋画の配給については、本当に底を脱した感はありますね。一昨年は本当に何にも決まらなかったのに、今年はずいぶん買われています。
矢田部:その決まってない中で、私を含めスタッフが認める作品というのを選んでいって、僕は非常にいいセレクションになったのではないかなと思います。真っ先に決めたのがジョナス・メカスとルイス・ゲリンの『メカス×ゲリン往復書簡』です。僕は、この2人の組み合わせというだけでドキドキしちゃうんです。それと、サンダンスの脚本賞をとった『アナザー・ハッピー・デイ』も、すごく良い出来です。エレン・バースティンも出てますし、このサム・レヴィンソンというのはバリー・レヴィンソンの息子なんですよ。弱冠23、4歳で、すごい脚本を書きました。これは傑作だと思います。

それから、さっき話に出た、映画祭が付き合っていかなきゃいけない監督の1人がこの『盆栽』のクリスチャン・ヒメネスです。これはカンヌのある視点に出ていた作品ですが、ヒメネスは前作の『見まちがう人たち』を2年前のTIFFのコンペで上映した際に、ジュリー・ガイエたちと会って、この作品を作るきっかけが出来たんで、これは縁結びの作品というか、東京が生んだ作品なんです。

●当日券がワンコイン
-今年は香川京子さんのレトロスペクティヴがありますね。
矢田部:日本映画のクラシックが数年間なかったので、これは映画祭としてはよろしくないなと思っていたところ、フィルムセンターさんから、香川京子さんが表彰を受けるんで、これを機に一緒にやりませんかということで、渡りに船で、やらせていただいたという経緯ですね。来年どうなるかはまだ決まっていませんし、ずっと俳優でいくかもわかりませんが、クラシックを何らかの形でやるのは映画祭の義務だと僕は思っております。

-今年の東京映画祭はここが変わったというようなところはありますか。
矢田部:すごくアピールしたいのは、学生当日券500円です。ここ数年、とにかく若い人に映画を見て貰いたいと思ってまして、映画人は皆危機感を持っていると思いますが、若い人が映画を見ないと業界の未来はないと思います。僕は、学生は無料でいいとまで言ったんですが、さすがに無料だといろんなオペレーションに問題があるみたいで、オープニングとクロージングをのぞく全部門、当日1コイン500円で見て貰えるようになりました。これは今年に限らず、何年か続けてアピールしていきたいと思います。
(2011年10月12日 東京・映画祭事務局にて)

写真は中央区新川のオフィスで映画祭スタッフに囲まれて。

(齋藤敦子)