シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4完)コンペの意義とは?

2011/11/01

 最終日10月30日午後から授賞式が行われ、以下のような結果が発表になりました。

 前回のレポートで"大粒化"の難しさについて触れましたが、今年の問題点は審査する側にもありました。一昨年のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、昨年のニール・ジョーダンと監督が続いてきた審査員長が、今年はプロデューサーになったこと、しかも5人の審査員のうち、プロデューサーが2人もいて、監督が1人しかいないのは問題になるだろうと危惧していました。おそらく今年はプロデューサー受けのする"仕上がりのいい"映画に賞が行くのではないか、という私の予想は残念ながら当たってしまいました。

 『最強のふたり』は、事故で首から下が麻痺した大富豪と、介護に雇われる貧しい黒人青年の交流を描いたコメディで、楽しい映画に仕上がってはいるのですが、普通に劇場公開されて当然の商業映画で、これがTIFFのグランプリかということに私は違和感がありました。この違和感はプレス共通だったようで、授賞式後の審査員記者会見で、"映画祭のコンペの意義とは何か"という質問が飛んだのですが、残念ながらその質問の真意は審査員に伝わりませんでした。
 矢田部ディレクターは、2006年にミシェル・アザナヴィシウスの『OSS117私を愛したカフェオーレ』がサクラグランプリを獲った経緯を傍で見ていたはずで、『最強のふたり』をコンペに入れることについて"最後まで悩んだ"とインタビューで語っていたのはそのためでしょう。今年のカンヌでも、最後に員数合わせでコンペ部門に格上げになったアザナヴィシウスの『アーティスト』が予想外の賞を獲ってしまったり、去年のヴェネチアでは王兵の『無言歌』が無冠に終わったりと、映画祭側と審査側の齟齬はTIFFだけの問題ではないのですが。

 今年、賞に絡んだ作品の中で唯一、映画的に冒険していた作品は監督賞の『プレイ』でした。スウェーデンの地方都市イェーテボリで、ショッピングモールにいた3人の少年が黒人の少年グループから"お前の携帯は仲間の弟の盗まれた携帯だ"と因縁をつけられ、つきまとわれ、ついには携帯も財布もすべて盗られてしまうまでをドキュメンタリーのように撮りあげた作品。黒人少年グループが巧妙に"カツアゲ"する様を、周囲の無関心な大人の視点で観客に体験させるように撮るという手法が、ときにあざとく感じるものの、普通の人々の良識に隠された差別意識をあぶり出す、意欲的な作品でした。

 プレスマンの講評によれば、『最強のふたり』、『キツツキと雨』、『プレイ』の3本が最終審査に残り、『キツツキ』は軽すぎ、『プレイ』は暗すぎ、結果として『最強』がグランプリになった、とのことでしたが、よくよく聞いてみれば『プレイ』を支持したのは小林監督だけで、グランプリと他2本の間には大きな差があったようです。

 むしろ、私が注目したのは観客賞に『ガザを飛ぶブタ』が選ばれたことの方でした。イスラム教でもユダヤ教でも不浄とされているブタを海で釣り上げてしまったパレスチナ人の漁師が、厄介者のブタをなんとか処分しようと奮闘する姿に政治的な寓意を込めて描いた作品で、作りに甘さはあるものの、見ていて考えさせる面白い映画でした。これが『最強のふたり』よりも支持されたことに、私はTIFFの観客の"健全さ"を感じました。

 今、TIFFはワールドプレミア、インターナショナルプレミアなど"プレミア"度が高く、かつ知名度のある監督の作品を並べることで、外向けに映画祭の格式を整えようとしているように見えます。その難しさが見えてきたのが今年でした。が、実は観客は必ずしもその方向性を支持しているわけではなく、むしろ『ガザを飛ぶブタ』のような、小粒でも映画祭でしか見られない世界の映画をもっと見たいと思っているのではないか、そんな感触を受けた今年の幕切れでした。



受賞結果

●コンペティション部門
東京サクラ グランプリ:『最強のふたり』監督エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
審査員特別賞:『キツツキと雨』監督 沖田修一
監督賞:リューベン・オストランド監督プレイ』
女優賞:グレン・クローズ『アルバート・ノッブス』監督ロドリゴ・ガルシア
男優賞:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー『最強のふたり』
芸術貢献賞:『転山』監督ドゥ・ジャーイー『デタッチメント』監督トニー・ケイ
観客賞:『ガザを飛ぶブタ』監督シルヴァン・エスティバル

●TOYOTA Earth グランプリ
グランプリ:『鏡は嘘をつかない』監督カミーラ・アンディニ
審査員特別賞:『ハッピー・ピープル タイガで暮らす1年』
監督ドミトリー・ワシコフ、ウェルナー・ヘルツォーク

●アジアの風部門
最優秀アジア映画賞:『クリスマス・イブ』監督ジェフリー・ジェトゥリアン
スペシャルメンション:『鏡は嘘をつかない』監督カミーラ・アンディニ
             『TATSUMI』監督エリック・クー
             『ラジニカーントのロボット』監督S・シャンカル


●日本映画・ある視点部門
作品賞:『ももいろそらを』監督 小林啓一


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TOYOTA EARTHグランプリ
『鏡は嘘をつかない』カミーラ・アンディニ監督(左)
『ハッピー・ビープル』ドミトリー・ワシュコフ


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日本映画・ある視点作品賞『ももいろそらを』小林啓一監督


RIMG0193.jpg芸術貢献賞『転山』ドゥ・ジャーイー監督


RIMG0219.jpg観客賞『ガザを飛ぶブタ』シルヴァン・エスティバル監督と女優のミリアム・テカイアさん


RIMG0235.jpg審査員特別賞『キツツキと雨』沖田修一監督


RIMG0254.jpg監督賞『プレイ』リューベン・オストルンド監督


RIMG0265.jpg審査員記者会見の模様

(齋藤敦子)