シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)市山尚三ディレクターに聞く(前編)

2011/11/21

CIMG4279.jpg 第12回東京フィルメックスが19日から開催されました。オープニング作品は、キム・ギドク監督ひさびさの新作『アリラン』。コンペ部門には中国、韓国、スリランカ、イラン、日本から10作品がエントリーしています。また、ニコラス・レイ生誕百年記念で、遺作の『ウィー・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』が上映されたり、川島雄三と相米慎二の特集上映があったりの盛り沢山な内容です。今年の審査員長は、新作『CUT』の日本公開を控えたアミール・ナデリ監督、受賞結果は27日に発表されます。
 今年も事前に市山尚三ディレクターにいろいろとお話をうかがいましたが、少し長くなるので、2回に分けてお届けします。


CIMG4253.jpg●来年に影響?東日本大震災震災
-今年は震災があったり日本では大きな変化がありましたが、フィルメックス的にも何か影響がありましたか?
市山:3月以前に予算はほとんど決まっていますし、助成金とか企業の協賛金も前年度に決まってるんで、あまり目立ったところでの影響はないです。むしろ懸念されるのは来年になったときに、震災の復興にお金を遣うんで、助成金が減りましたということはありうる話ですが、今年に関しては、そんなに大きな影響はないし、ゲストもそれを理由に来ない人は誰もいなかったです。

-パナヒの映画には、震災が出て来ますし、TIFFで上映されたヌグロホの娘の映画にも震災がちょっと出て来ますが、映画祭を回っていて、作品的に影響を感じたことはありますか。
市山:そういうことを意識して作品を選定してるわけではないので。1つには藤原敏文さんの『無人地帯』が直接震災を扱っているということはありますが、普通に見て、いいと思ったから入れたわけで、震災を扱っているから入れたのでないんです。

-日本映画の話題が出たので、去年は「冬のけもの」が見事にグランプリを獲りましたが、選定者の意図としては、してやったりですか?
市山:これはある意味、意外な結末でした。たぶん審査員が違っていたら、全然違った結末になったでしょうね。嬉しい驚きと言ってもいいかもしれないですけど。審査員がどう判断するかによって、まったく違う結果が出ていたと思いますね。

-今年の審査員長はナデリさんですが。
市山:ナデリはすごいシネフィルで、あらゆる映画を見てますし、ドキュメンタリーでは山形の審査員なんかもやっているし、こういうのがダメだということがない人なんで、逆に言うと、何を気に入るかというところに興味がありますね。

-去年は外国映画配給が底を脱して上向いてきたということでしたが。
市山:それは継続中です。今年もうちが決めた後に配給が決まったのが結構出て来てます。キム・ギドクの『アリラン』も売れないかなと思ったら、カンヌの直後にクレストに売れたりとか、何本か既に売れている作品もあります。

-ジョニー・トーの『奪命金』はまだ売れてませんね。
市山:まだほとんど見てる人がいないんです。ヴェネチアがワールドプレミアなんで。今回、ジョニー・トーは来ないんですが、セールスの人達が来るというんで、フィルメックスでセールスをするつもりなんじゃないですか。

●急激に進む中国のデジタル化
-去年から今年にかけて映画界を俯瞰してきて、市山さん的にはどんな印象を持たれましたか。TIFFで石坂健治さんにインタビューしたときに私が一番感じたのは、急速にデジタル化が進んでいる問題で、アジアの風部門では今年はフィルムが3、4本になってしまったという話でした。数年前に崔さんにインタビューしたときには、フィルムは残るだろうという意見だったんです。例えば中国は広いし、映画館をすべてデジタル化するには凄いお金がかかるだろうと。
市山:まず、中国は今、古い映画館が木っ端みじんになくなっているんです。それで全部シネコンに変わっている。最初からデジタルしかない、フィルムが掛けられない映画館がどんどん出来ているという状況で、中国のデジタル化は日本よりも急速です。

-そうなんですか。今、ヨーロッパでも独立系の映画館のデジタル化を政府の支援で行うという話が出ているようですね。アジアの映画界を回ってみて、デジタル化がクリエイティヴィティにどんな影響を与えると感じました?
市山:まず大きな問題は、今は最初からフィルムを知らない世代がどんどん出てきているということです。特にアジアの、映画産業とは別のところで映画を撮っていて、フィルメックスに応募してくるような人達ですね。学生の頃からデジタルで短編を撮って、フィルムを知らないままデビューする。だから、最初からフィルムとデジタルの違いなどというところとは別の次元にいる。最初からフィルムに興味がないんです。
 侯孝賢なんかは、彼はフィルム世代の人なんで、フィルムで撮ることの緊張感というか、フィルムを無駄に出来ないという中での緊張感があると言うんです。そういうわりに、彼は何度も撮り直しをして、どんどん無駄にしているような気がするけど。

●フィルムの質感は重要
-痛みを感じつつ無駄にしていると、痛みを感じないで無駄にしているのとは違うと(笑)。
市山:それは確かにクリエイティヴィティの領域ではあるけど、それはフィルムを知ってる人達の発言だと思うんです。デジタルの人達は最初からそれを考えないで撮っている。だから、これから出てくる人は逆に何が問題ですかということになってくると思うんです。あと、唯一、残るのは画面の質感ですね。カメラマンとか監督とかの狙いで、デジタル的ではなくフィルム的な狙いのものをやりたいんで、フィルムを使いますという、そういう実用的な意味のフィルムは生き残る。撮影媒体としてのフィルムというのは絶対になくならないとは思うんです。アメリカのテレビドラマも結局フィルムで撮ってるわけじゃないですか。ポスプロ(ポスト・プロダクション)はデジタルでやるんで、フィルムはないんだけど、映像に映画的な質感を出したいということで、アメリカの「24」とかああいう作品は撮影はフィルムで行っているんです。

-ネガでデジタルに変換する?
市山:撮影済みのネガをデジタルに変換して、編集はデジタルでやるんで、完成済みのプリントというのは存在しないんです。デジタルの素材しかない。アモス・ギタイの映画もそうですよね。去年の『幻の薔薇』とか。その前のジャンヌ・モローが出た『いつかわかるだろう』という映画も、もともとテレフィーチャーとして撮ったので、16ミリで撮って、デジタルでポスプロをやって、そのあと映画祭を回り始めたので、デジタルから35ミリのプリントを作ったという、すごい変な行程を辿ったんです。

-映画祭で上映するために35ミリを焼いた?
市山:最初はテレフィーチャーとして放映するだけなのでプリントは作らなかったんですが、映画祭を回り始めたので、HDマスターからプリントを焼いたんです。フィルメックスではデジタルで上映しましたが。

-映画祭ではまだデジタルの機材がないところが多いわけですか?
市山:そうですね。これはギタイ本人に確認が必要ですが、もう1つ考えられるのはフィルムにすると安定するんです。要するに、色調などを調整していったん35ミリのネガを作ってしまえば、どこにいってもプリントは、ほぼ同じように上映できる。デジタルだと会場によっても機械によっても全然違って映ってしまう。ここではちゃんと映っても、他の会場では全然違って映るとか、機械との相性で全然違って映るという問題がある。35ミリのネガを作っておけば、とりあえずプリントのクオリティは変わらない、というのはあるんです。

-過渡期的な問題でしょうか。今年はTIFFでもデジタルの素材がかからなかったということがありましたね。まだ世界標準というのがなくて、機材がいろいろ出回っているから。
市山:技術者に聞くと、"その辺は相性としかいいようがない、どうにもなりません"と言うんですよ。暗いところが全然映ってなくて、なぜだというと、"このプロジェクターでやったら、こうなるんです"と。今はまだそんな状態なんです。フィルメックスでもいちいち、毎回、調整に時間がかかるんですが、逆に言うとデジタルは調整できる、幾らでも変わるということは言える。

●デジタルの保存期間
-それは、ちょっと不安じゃないですか。でも、デジタルしか知らない人は"この程度の色調が出たらOK"みたいなことになるんでしょうか
市山:いや、やっぱり人によって狙いはあると思うんですよね。この程度出ていればOKですという人と、思った通りのここが出ないとダメだと言って、何回も何回も明るさを変えながらやるとか、そういう人もいると思う。デジタルの場合、そういう可変的な部分が逆に言うとクオリティが一致しないという問題になる。フィルムは安定してるし、歴史にも百年保存できることがわかっているわけですが、デジタルは百年保つかどうか誰にもわからない。

-デジタルだから保つとみんな思ってるのでは?
市山:もしかしたら50年後に完全に劣化して使えなくなるかも。

-データって半永久的に保存できるのかと思った。
市山:まだ誰も百年保存したわけじゃないから、わからないんです。フィルムはとりあえず百年間保っているのが歴史的に証明されています。

-褪色問題もありましたが。
市山:フィルムは元が残っていれば復元できるんですが、デジタルの場合は果たして復元できるかどうか。

-データだけに、消えちゃったらそれまで?
市山:そうです。だからフィルムがなくならないという主張はその通りだと思うんです。保存に適しているのと、クオリティが安定している、それと作家としてフィルムの質感というのを大事にしたいという意味で、撮影媒体としては残るんだけど、上映の媒体としては、どんどんデジタル化していく。35ミリで撮った映画でもデジタルマスターを作ってそれを公開することになっていく。

-すると興行形態がまったく変わってきますね。
市山:今度、土肥悦子さんが24日にフィルメックスでやるシンポジウムがまさにそれです。今、日本の映画館が直面しているのは、急速にデジタル化が進む中で、既存のアートシアターがどう生き残っていけばいいのかで、それは痛切な問題なんです。
(つづく)

 写真上は、開会式の壇上に並んだ今年の審査員、左からフランスの批評家フィリップ・アズーリ、映画監督のアミール・ナデリ、前ジョンジュ国際映画祭ディレクターのチョン・スワン、映画監督の篠崎誠の各氏。
 写真下は、市山尚三ディレクターです。

(齋藤敦子)