シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)心の近代化問う2作品

2011/11/26

 11月23日、『ワイルドサイドを歩け』のハン・ジェ監督待望の第2作、『ミスター・ツリー』が上映されました。
 映画の舞台は、鉱山会社が新たに建設した団地への移住が進み、さびれていく鉱山の村。主人公は"ミスター・ツリー"(樹先生)と呼ばれる男で、少年だった頃、不良の兄を罰しようとした父が誤って兄を死なせ、後追い自殺をしたという暗い過去があり、それがトラウマとなって、何をやってもうまくいかない。移住が進み、さびれていく村に残っていた彼が、思い切って仕事をしようと町に出て、マッサージ店で働く唖者のシャオメイに出会って恋をし、結婚を決意するのだが...、というストーリーです。

4-1.JPG ハン・ジェ監督によれば、この10年、中国では急激に都市化が進んでいて、過疎化した村を実際に見て回ったときに、崩壊した家屋とは対照的に生き生きと緑を茂らせている樹木を見て発想した映画だそうです。この映画は上海映画祭で上映され、審査員特別大賞と監督賞を受賞していますが、市山ディレクターとのインタビューに、映画を見た中国人の多くが、兄がしでかした不始末を天安門事件か、それに類する学生運動ではないかと思う、という話が出てくるのですが、監督によれば、そうではなくて、80年代という開放的な時代に、西洋文化にかぶれて自由恋愛をしたことが世間的に"恥"であったとのことでした。

 『ミスター・ツリー』の樹先生は、80年代の申し子であった兄と、そんな過去とは無関係で、さっさと町に出て成功した弟との間に挟まれた、"誠実であるがゆえに時代に乗り遅れた者"の代表。そこに多くの中国人が共感し、自分の姿を投影した結果、兄の死の原因について様々な憶測が生まれたのだろうと私は思います。

 21日に上映されたペマツェテン監督の『オールド・ドッグ』もまた、純血のチベット犬(チベッタン・マスチフ)が中国の富裕層の人気になっているという風潮を背景に、老いた父と子供の出来ない息子の姿にチベットの現状を仮託して描いた作品。『ミスター・ツリー』の地方の近代化問題は、『オールド・ドッグ』では中国化問題と一体となって寒村に及んでいます。"広い草原で羊を追うチベット犬はチベットの牧人のもの"という老父は、いくら値段が上がろうと、犬を中国人の手に渡すのをよしとせず、ついには最終的な手段に訴えてしまいます。

 時代が急速に変化しようと、人はその速度に追いつけるわけではないし、人の心は近代化できないということを、この2本の映画は見事に捉えていると思います。

写真は、『ミスター・ツリー』上映後、場内からの質問に答えるハン・ジェ監督です。

(齋藤敦子)