シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)日活100周年 特集で26本上映

2011/11/28

091129map.jpg 11月23日夜、成田を発って、西フランスの古都ナントで開かれている第33回3大陸映画祭(11月22-29日)にやってきた。17度目の訪問になる。

 映画祭はアジア、アフリカ、中南米の3大陸に絞った作品だけを提供し続けるユニークなもの。今年はコンペティション部門10作品(全てフィクション)、招待作10本のほか、「日活100周年」でサイレント作品からロマンポルノまでの26本、メキシコのアルトゥール・リプスタイン監督とインドのマニ・カウル監督の業績を振り返るなどの特集が組まれ、盛りだくさんの内容だ。会期中、中心街の3つの映画館(7スクリーン)と郊外の新たな3会場で91本が上映される。

 仙台から約19時間の旅。時差がマイナス8時間のためパリ着は24日早朝4時過ぎ。もやに包まれていたものの、意外に暖かくて10度だった。新幹線(TGV)のナント行き始発で午前9時前に到着。10時から映画を見始めた。初日はコンペ部門のイスラエル、招待作のインド、日活特集の3作品を見た。

091129-01.jpg朝からコンペ作品を見ようと列をつくる市民たち(カトロザ前)
 コンペ部門の「ポリスマン」(2011年)は、フランス・ドイツで映画づくり学んだナダブ・ラピド監督が、イスラエル警察のテロ対策班を描く。ハリウッド的なアクションかと言えば、イスラエルの国情ゆえにそうはならない。監督は、チームのエリートの1人、ヤロンを軸に体力を鍛えるだけでなく、その家族たちを含めた仲間意識、ひいては地域づくりにまでかかわる彼らを丁寧に描き出して、その存在を印象づける。

 だが、イスラエル社会にも社会的な不平等と物価高による生活苦が強まり、この事態を糾弾しようという動きも出てくる。後半は、ヤロンが想定しない、感情的で社会性が未熟なグループが、富豪の結婚式を襲い、人質を取って立てこもる。ヤロンたちに制圧命令が出され、彼らは黙々と務めを果たすのだが、同胞を撃った彼らの心も傷つかないではいられなかった。
 テロ対策班の生活の全てが任務に近いという前半と同じくらい、普通に暮らしていた人たちの襲撃に至る過程も丁寧に描かれる。それだけにラストの制圧場面は心の迷いを振り切るだけの、パワフルで大胆なものとなっている。

 招待作の「Chatrak(マッシュルーム)」(2011年)は、スリランカ生まれのヴィムクティ・ジャヤスンダラ監督(44)が、自然との人間の関係を暗示的に描いていて考えさせられる。カンヌ映画祭の監督週間出品作だ。
 カルカッタ生まれの建築家ラフルは、中東のドバイでキャリアを積むために大きな事業に携わっていた。そこに恋人のパオリが訪ねてきて、彼の兄が狂気にとりつかれ、森の樹木の中で暮らしている、と伝える。帰国したラルフは何とか兄を捜し出すのだが...。
 ドバイの先端都市と、まだまだ森に囲まれたインド。人びとの大半は緑や土地と離れても生きている。生きていけると思っている。しかし、本当にそれで人間は平静を保っているのだろうか。

 ジャヤスンダラ監督は2005年、処女作「見捨てられた土地」でカンヌ映画祭のカメラドールを受賞している。中央政府と「タミルの虎」との内戦が停戦中(2002-08年)のスリランカの小さな村を舞台に、家族でありながら疎外感を感じ、希望を持てないで生きる人たちを、美しい自然と対比させて描き、強烈な印象を与えた。
 2009年には、「2つの世界の間で」がベネチア映画祭コンペ部門にノミネートされている。

 日活100周年は石原裕次郎主演の「錆びたナイフ」(1958年、舛田利雄監督)を見た。恋人に暴行した組員を殺害したことで服役、出所後はバーテンとして地道に暮らしていた男(石原)は、かつての仲間が組長を市議会議長殺しで脅迫したことから、その生活が狂ってくる。放送記者をしている市議会議長の娘(北原三枝)から暴力団追放への協力を依頼されるが断るものの、弟分(小林旭)を殺され、恋人への暴行も陰で組長が動いていたことが分かり、組長を追い詰める。だが、もっと大きな悪が控えていた...。ヒット歌謡曲をテーマに映画化されたものの1つ。
 今から見れば、随分と荒っぽい展開だが、テンポが良く、石原、小林、宍戸錠ら(本当に若い!)が、演技というより若さでぶつかっているのが気持ちいい。北原のまっすぐ過ぎるお嬢さんぷりも見所の1つだろう。
091129-01.jpg石原裕次郎と北原三枝(「錆びたナイフ」より)
 今年のポスターは日活100周年特集にあやかって"日本趣味"を全面に押し出していて、かなり目を引く。使われたのは和製オペレッタ映画「鴛鴦(おしどり)歌合戦」(1939年、マキノ正博監督)の1場面。若殿(ディック・ミネ)と商家の娘(服部富子)がお江戸の町ですれ違ったところ。桜をモチーフした扉絵がプログラムの各章を飾ってもいる。
091129-01.jpg第33回のポスター(「鴛鴦歌合戦」の1場面)
 上映開始時の映像も今回は一ひねり。これまでの受賞作のうち、ツァイ・ミンリャン、サタジット・レイ、ウォン・カーウィらの代表作の場面をつなぎ、最後は波の音とともに砂が洗われて字が浮かぶと、受賞者一覧に変わるという、ロワール川を望むナントを象徴する凝った趣向に仕上がっている。

(桂 直之)