シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)「生きる」ことに迫った「今日も心配なし」

2011/11/28

 25日はコンペ作品ではアルゼンチンの「今日も心配なし」、台湾の「Honey PuPu」、スリランカの「トビウオ」、日活100周年特集では活動弁士、澤登翠さんによるサイレント作品2本と「幕末太陽傳」を見た。

 「今日も心配なし」(2010年)は、アルゼンチンのさえない小さな町を舞台に、子どもと犬用の裁縫店をやっている若い姉妹を中心に、身近な人たちのつながりが丁寧描かれる。広がりはないが親密な関係性、それだからこそ人々は安んじて生きている。
 と、ここで終わっていれば、題名通りだったのだが、イヴァン・ファンド監督(27)は一ひねりする。2部構成の後半は、撮影カメラが堂々と画面に登場し、前半の登場人物よりも、より周辺の一般の人たちに比重が置かれて、人々のつながりが描かれる。
 監督はフィクションの世界での"きれい事"でなく、現実世界での普通の人々の生き様を重ね合わせることで、より「生きる」ことに迫ったといえる。ただ、見る側の気持ちが、監督の意図通りにすんなり流れていったどうか、そこで評価が分かれるだろう。僕自身は、後半に違和感を持ったので、最後まで見続けるのがややつらかった。

 「Honey PuPu」(2011年)では、台北を舞台に大人たちと距離をおいて、ネットの持つあいまいな世界に"逃げ込む"若者たちが描かれる。ホン・イーチェン監督はネット上の愛称で結び付いた若者たちが、ネット社会を引きずりながらも現実世界でも生きていかなければならないことをあぶり出す。ネット交信はCGを使って目を見張らせ、情景説明にはバッハ、モーツアルト、ベートーベンらのクラシックをぴったりと当てはめたかと思えば、ロックやカラオケも効果的に使うなどの演出は印象的だった。


ネット上のあいまいさを現実世界でもひきずる2人(「Honey PuPu」より)

 「トビウオ」(2011年)は、セイロンの26年に及ぶ中央政府と「タミルの虎」との内戦(1983~2009年)状態がもたらした悲劇を描く。サンジェワ・プシュパクマン監督(34)は上映前のあいさつで「私自身のデリケートな物語だ」と語っていた。内戦状態が人々に無言の圧力をかけ続けた結果、家族や隣人の関係が壊れ、自殺や殺人へと追い込んだことを、真正面からとらえて再検証をしているかのようだ。自然景観の素晴らしさが、余計に人間の醜さ、弱さをあぶりだしている。

上映前にあいさつする弁士の澤登翠さん=レ・グランドT

 日活100周年特集で最大のイベントは活動弁士(活弁)付きサイレント作品の上映。
 サイレント時代の当初は欧米でも前口上があり、作品が長くなるにつれ前説明に変わるが、日本では更なる長編化で1910年代から舞台左端の演壇で内容説明を行うようになる。歌舞伎、人形浄瑠璃の義太夫語りで、生身の語り手に慣れていた日本では、役者よりも弁士が人気を競い合った。

 澤登翠(さわと・みどり)さんは現代活弁の第一人者、溝口健二監督の「東京行進曲」(1929年)と伊藤大輔監督の「御誂(おあつらえ)次郎吉格子」(1931年)を熱演した。
 中心部の映画館でなく郊外のコンベンション会館で開かれたが、多くの観客が訪れた。澤登さんは、「あこがれていたナントの映画祭で、尊敬する溝口、伊藤両監督の作品をやることができて幸せです」とあいさつ。フルートとギター・三味線をバックに、テンポ良く語っていけば、ピントがやや甘い画面も輝き始め、会場全体が熱気を持った。

 「東京行進曲」は1人の女性を巡っての親友同士、父親との葛藤を描いたもの。澤登さんは「ここだけですよ」と断りながら主題歌「東京行進曲」も歌った。


場面をより彷彿とさせたフルート、ギター・三味線の伴奏
 「御誂次郎吉格子」は義賊と言われた鼠小僧次郎吉が、捜査の手が迫ったことから、江戸から大阪へ身を隠すが、絶体絶命の危機に陥る。さて鼠小僧は逃れられるのか...。活弁は、捕り手との手に汗握る駆け引きの華々しさ、その一方での2人の女性とのかかわりでの心理的な陰影など、生身の語りならではの画面との一体感もあって、2時間近くの上映はあっという間に終わっていた。

 日活特集のもう1本は「幕末太陽傳」(1957年)。幕末の品川宿を舞台に、お調子者だがちゃっかりしている佐平次(フランキー堺)を中心に女郎(左幸子、南田洋子)、高杉晋作(石原裕次郎)らの人間模様が描かれる。

 落語の「居残り佐平次」に郭噺(くるわばなし)の「品川心中」「三枚起請」などを組み合わせたものだが、川島雄三監督のリズムカルでメリハリのある演出で、あれよあれよと引き込まれる。フランキーの無駄のない、切れのいい演技も出色。コミカルなのだが、後半にかけては佐平次のせき(結核?)が暗い影を落とし始める。幕末期、日常が死と隣り合わせだった、ということにも気付かされる。何度見ても味のある、忘れがたい作品だ。

 今年のナントは例年より暖かい。着いた24日以降、最高気温は10度前後。晴れ間はほとんどないが、日中はダウンのコートだと暑いぐらい。映画の合間の散歩にはぴったりだ。
 本、DVD、音響機器、カメラを扱うfnacを毎年のぞくのだが、今年は「Manga」の大型コーナーが新設されていてびっくりした。フランスでは以前から日本のコミックが大人気で、朝のTV放送だけでなくパリでは専門店があってにぎわっているのを知っていたが、ナントでこれほどとは思わなかった。友達の子どもたちに聞くと「ワンピース」「NARUTO」が大人気だという。


fnacの新設された「Manga」コーナー
(桂 直之)