シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)実力者の新作次々/難役に挑むコティアール

2012/05/22

marion02.jpg ではアメリカ映画に対抗するヨーロッパ勢はというと、序盤には2009年に『預言者』でグランプリ(審査員特別賞)を受賞したフランスのジャック・オディアール監督の『錆と骨』、2008年に『ゴモラ』でグランプリを受賞したにイタリアのマッテオ・ガローネ監督『リアリティ』、2007年に『4ヶ月、3週と2日』でパルム・ドールを受賞したルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督『丘の向こうに』と、いずれも前作がカンヌで高く評価されている監督の期待の新作が並びました。

 ジャック・オディアールは、フランス映画界でパルム・ドール(最高賞)に最も近いと期待を集めるベテラン監督で、今回の『錆と骨』という映画は、シャチに襲われて両足を失った水族館の調教師が、幼い息子を連れて南仏に流れてきたマッチョな男によって立ち直るまでを描いたもの。『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』でアカデミー主演女優賞を獲得し、ハリウッドでも活躍するマリオン・コティヤールが難役に挑戦するのが話題の作品ですが、夜警をしながら賭けの格闘技で賞金稼ぎをし、やがてはプロになる男を演じたベルギー人俳優マティアス・スクナーツの新鮮な魅力が光っていました。

 マッテオ・ガローネの『リアリティ』は、家族の前でちょっとした芸を演じて人気者のナポリの魚屋が、娘たちにせがまれてリアリティ番組のオーディションを受けたことで、番組に出て有名になるという過剰な欲望が彼の人格を変えてしまうという皮肉な物語。『ゴモラ』ではマフィアにがんじがらめにされたイタリアの現実をドキュメンタリータッチで描いたガローネですが、今回はリアリティ番組によって現実を見失ってしまう男の悲喜劇を、ファンタジーを交えて描いています。

 クリスティアン・ムンジウの『丘の向こうに』は、少女時代を孤児院で共に過ごした親友に会いに、町外れの丘の上にある修道院にやってきた娘が、悪魔払いの犠牲になるというもので、実際に起きた事件に取材したノンフィクション小説が元になっています。『4ヶ月、3週と2日』で評価された演出力は健在で、絶対的な権力を持つ男性の修道院長に盲目的に従う修道女たちが、"善意"で人を殺してしまうまでを冷徹に描いていて、2時間30分の長尺に一瞬の緩みもないのは、さすがだと思いました。

写真はジャック・オディアール監督の『錆と骨』。


(齋藤敦子)