シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)才能の多様な展開/グローバル化一層進む

2012/05/20

 今年はアメリカ映画『ムーンライズ・キングダム』からコンペティションが始まったのが象徴するように、例年よりアメリカ映画が多い印象を受けます。ただ、アメリカ映画と一口に言っても、世界の映画産業をリードするアメリカでは、早くから世界中の優れた才能を受け入れてきたので、"アメリカ映画"の定義が難しいのですが、今年のコンペだけを見ても、カナダ人のデヴィッド・クローネンバーグがニューヨークを舞台にした『コズモポリス』を撮り、ブラジル人ウォルター・サレスがジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を撮り、ニュージーランド人アンドリュー・ドミニクがブラッド・ピットを主演に『キリング・ゼム・ソフトリー』を撮り、オーストラリア人ジョン・ヒルコートが禁酒法時代に密造酒を売りさばいて警察と抗争した兄弟の実話を描いた『無法者』を撮る、といった具合。

 映画の国籍が曖昧になっているのはアメリカ映画だけではなく、2009年に『白いリボン』でパルム・ドールを受賞したミヒャエル・ハネケはオーストリア人ですが、『アムール(愛)』は『二十四時間の情事』のエマニュエル・リヴァと『男と女』のジャン=ルイ・トランティニャンを主演にフランスで撮った作品ですし、あるいは、イランのアッバス・キアロスタミ監督が日本で日本人のスタッフ・キャストを使って撮った『ライク・サムワン・イン・ラヴ』などは、日本映画なのかイラン映画なのか判断に苦しむところです。このように、資本のレベルだけでなく、クリエイティブな面でもグローバリゼーションが進んでいることが今年のラインナップによく現れていると思いました。

2_2.jpg キアロスタミ監督の作品が日本映画かどうかは別として、その他の日本映画は、ある視点部門に正式出品される若松孝二監督『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』と、昨年『一命』をコンペに出品した三池崇史監督の『愛と誠』がコンペ外招待作品としてミッドナイト上映されるだけで、ちょっと寂しい年になりました。

2_1.jpg とはいえ、開催3日目の5月18日、カンヌ・クラシック部門で、もう1本の日本映画の上映がありました。それが1956年の木下恵介監督作品『楢山節考』です。昨年は日活が創業100年を記念して日活が製作した日本映画の名作を世界各地の映画祭で上映するイベントがありましたが、木下恵介監督の生誕百年に当たる今年は、松竹がイマジカの協力でデジタルリマスターした『楢山節考』をカンヌでプレミア上映したわけです。深沢七郎の原作は、今村昌平監督による再映画化作品が1983年のカンヌでパルム・ドールを受賞しており、フランスでは今村作品の方が有名なのですが、今回の修復で美しく蘇った木下恵介作品がこれから広く見られることによって、木下恵介という異才にも注目が集まるのではないかと思います。

 写真上はアッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラヴ』の1シーン。

 写真下は上映前に、1956年のヴェネチア映画祭のコンペに出品された際に『楢山節考』をごらんになったウルリッヒ・グレゴール氏が、当時の模様や作品の歴史的意義を話してくださっている模様です。

(齋藤敦子)