シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5)演劇と映画の狭間で/アラン・レネ監督の新作

2012/05/24

alan.jpg 映画祭が後半に入った21日月曜日に、フランスを代表する名匠アラン・レネの『あなた方はまだ何も見ていない』の正式上映がありました。

 1922年生まれのレネは6月で90歳。トリュフォー、ゴダールと並ぶヌーヴェル・ヴァーグの中心的人物で、『二十四時間の情事』、『去年マリエンバートで』といった数々の傑作を撮っています。特に、映画の中に演劇の要素を取り入れた作風で知られ、今回の『あなた方はまだ何も見ていない』も、まさに演劇と映画の狭間を模索する実験でした。

 映画は、サビーヌ・アゼマ、ピエール・アルディティといった俳優たちに、劇作家アントワーヌ・ダンタックの突然の死を知らせる電話が掛かってくるところから始まります。彼らは皆、ダンタックの友人であり、彼の戯曲<エウリディス>(実はジャン・アヌイの同名戯曲)を演じた俳優たち。別荘に集められた彼らは、ダンタックの遺言により、若い劇団の演じる<エウリディス>の映画を見て、それが今の時代に通用するかどうか判断するように求められます。居間のスクリーンに若者たちが演じる<エウリディス>が映し出されると、スクリーンのこちら側にいる俳優たちもまた、いつの間にか<エウリディス>の舞台に立っている...、という不思議な作品です。

 写真上は上映後に行われた記者会見の模様で、まるでご自身の遺言のような内容の映画ですが、まだ矍鑠としたアラン・レネ監督と、公私ともに名匠を支える女優サビーヌ・アゼマです。

all.jpg 時間が少し前後しますが、20日の日曜日に映画祭のプレジデント、ジル・ジャコブが監督した『特別な1日』というドキュメンタリー作品の記念上映がありました。これは5年前、60回目を記念してカンヌ映画祭が世界中の監督たちに依頼して制作した『それぞれのシネマ』というオムニバス作品を上映した日の記録で、日本からは北野武監督が参加していました。私も記者会見に行ったので、あの日のことはよく覚えています。

 写真下は上映前に行われたプレゼンテーションの模様で、『それぞれのシネマ』に作品を提供した監督たち、今年の審査委員長ナンニ・モレッティから、クロード・ルルーシュ、デヴィッド・クローネンバーグ、アモス・ギタイ、エリア・スレイマンら、各国を代表する蒼々たる顔ぶれが舞台に並び、ジル・ジャコブがスピーチしているところです。『特別な1日』は、その後亡くなったラウール・ルイスとテオ・アンゲロプロス両監督に捧げられていて、会場にはアンゲロプロス夫人も顔を見せていました。

 が、会場で最も大きな拍手を受けたのは壇上の監督たちではなく、先日入閣したばかりのオーレリー・フィリペッティ新文化相の登場。フランスでは来月国民議会議員選挙があり、その選挙キャンペーンの一貫としてフランス中の注目が集まるカンヌに現れたのでしょう。社会党の公約通り、新内閣にはフィリペッティ文化相を始め、ポストの半数を女性が占めていますが、今年のカンヌにはコンペに女性監督の作品が1本もなく、壇上に並んだ監督も男性ばかりなのが寂しいところです。

(齋藤敦子)