シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(6)表現への規制厳しく/キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』

2012/05/24

 21日に、日本映画らしからぬ日本映画、イランのアッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラヴ』の正式上映が行われました。
登場人物は、家族に内緒で風俗のバイトをしているらしい女子大生、彼女を家に招く老教授、女子大生のボーイフレンドで、自動車修理工場を経営している青年の3人。映画は、カフェのマスターに頼み込まれた女子大生が、深夜タクシーで老教授の家に向かうところからの1日を描いていて、題名はエラ・フィッツジェラルドが歌うジャズの名曲から取られています。キアロスタミ監督は、3人に"演技をしないで、素の自分を出すよう"求めたそうで、シチュエーションだけあって、ストーリーらしいストーリーはなく、流れる時間の中で揺れ動く登場人物たちの心を映し出したような、不思議な作品でした。写真は会見の模様で、左から高梨臨さん、アッバス・キアロスタミ監督、奥野匡さん、加瀬亮さん、プロデューサーの堀越健三さんです。

6_1.jpg イランでは、アハマディネジャド政権になって以来、自由な表現活動がさらに厳しく制限を受けるようになりました。モフセン・マフマルバフ監督のように国外に活動の場を移す監督も多く、2010年3月に突然当局に拘束され、映画製作を禁じられたジャファール・パナヒ監督の事件と、それでも『これは映画ではない』という"映画"を撮って、当局の措置に抵抗したその後の経緯は、この欄のカンヌおよびフィルメックスのレポートで取り上げています。1997年に『桜桃の味』でパルム・ドールを受賞した名匠アッバス・キアロスタミ監督も例外ではなく、近年は国外で映画を撮らざるをえない状況になっています。

 日本側のプロデューサーの堀越健三さんは、これまでキアロスタミ監督の全作品を日本で配給してきた方で、キアロスタミ監督が来日した際に「日本で映画が撮りたい」と漏らした一言が、今回の作品に結実したのだそうです。一方、フランス側のプロデューサーのマリン・カルミッツ氏もフランスでキアロスタミ作品を配給し、前作『トスカーナの贋作』などの製作を引き受けるようになった方。日本とフランスの間に合作協定がないため(何年か前にカンヌで日仏間に合作協定ができるという発表はあったのですが、未だに締結には至っていません)、製作は大変困難だったそうですが、それでも映画を撮らせたいという強い思いを起こさせるような魅力が、キアロスタミ監督とその作品にあるのだと思いました。

(齋藤敦子)