シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(7)注目のコンペ復帰/レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』

2012/05/26

 今年のカンヌで、私が個人的に最も楽しみにしていた映画の1本が、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』でした。カラックスは1984年に批評家週間に長編デビュー作の『ボーイ・ミーツ・ガール』を出品、その才能に注目が集まり、2作目の『汚れた血』と合わせて"ゴダールの再来"とまで言われた人でした。が、南仏にパリのポンヌフ橋の巨大なセットを建てて撮った3作目『ポンヌフの恋人』の興行的な失敗で躓き、1999年にコンペに初出品した『ポーラX』以後、映画から遠ざかっていました。それでも少しずつ復活の兆しを見せ、2008年にミッシェル・ゴンドリー、ポン・ジュノと1話ずつを担当したオムニバス映画『TOKTO!』でカンヌのある視点部門に登場。そして、『ポーラX』以来13年ぶりに完全復活を遂げた『ホーリー・モーターズ』でコンペ復帰ですから、私だけでなく、世界中の映画ファンが熱く注目するのも当然で、その期待は裏切られませんでした。

 主人公は白いリムジンに乗ってパリの街を徘徊するムッシュ・オスカーという謎の男(ドゥニ・ラヴァン)。彼は、リムジンを運転するセリーヌ(エディット・スコッブ)から渡された指示書に従って、銀行家を始め、『TOKYO!』に登場したムッシュ・メルドや、ビデオゲームに動きを提供するモーションキャプチャーのモデル役などの10役を次々に演じていきます。

 ドゥニ・ラヴァンは長編デビュー作以来、レオス・カラックスの分身を演じてきた人ですし、主人公に本名のオスカーという名を与え、プロローグの場面にカラックス自身が登場することでも容易に推察できるように、今回の『ホーリー・モーターズ』は彼のどの映画よりも彼自身に近い、彼の想念の世界そのものを描いた作品だと思います。

7_1.jpg 写真は記者会見の模様で、左からカイリー・ミノーグ、レオス・カラックス、エディット・スコッブ、ドゥニ・ラヴァンです。エディット・スコッブといえば、フランスでカルト的な人気のあるジョルジュ・フランジュの恐怖映画『顔のない眼』で、交通事故で顔を失った娘を演じた人で、今回も『顔のない眼』とそっくりのマスクを被る場面が出て来ますし、『ポンヌフの恋人』に登場したサマリテーヌ百貨店の巨大は廃墟が舞台になったり、映画の中に様々な映画の記憶が登場してきます。会見でそれを聞かれたカラックスは"映画作家は1つの美しい島で、そこには大きな墓地があるのだ"と喩えていました。

(齋藤敦子)