シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(9)好評だったキッチュな演出/ミュージカル版『愛と誠』

2012/05/28

9_1.jpg コンペに純然たる日本映画はなかったものの、21日深夜にコンペ外招待作品として三池崇史監督の『愛と誠』=写真=が、25日にある視点部門で若松孝二監督の『11.25自決の日
三島由紀夫と若者たち』が上映されました。

 『愛と誠』の原作は、1970年代に少年マガジンに連載された、大富豪のお嬢様と貧乏な不良少年の恋を描いた梶原一騎作・ながやす巧画の劇画。これまでに何度も映画化、テレビ化されていますが、今回は西城秀樹の<激しい恋>など70年代のヒット曲を使ったミュージカル版で、三池監督らしいキッチュな演出がフランスでも大いに受けていました。スケジュールの都合か、監督も出演者もカンヌに姿を見せなかったのが本当に残念でした。

 『11.25自決の日』は、日本初のノーベル文学賞候補と期待されていた三島由紀夫が、私兵組織"盾の会"を結成し、1970年11月25日にメンバー4名を連れて自衛隊の市ヶ谷駐屯地を訪れ、総監を人質に、自衛官に憲法改正を求める決起を促す演説を行ったのちに割腹自殺した、いわゆる三島事件を描いた作品です。

 『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』という作品もあり、思想的には左翼と思われていた若松孝二監督が、今なぜ三島由紀夫に感心を持ったのかに興味が沸くところですが、学生運動が最高潮だった1960年代末、思想的にはまったく逆の立場で行動した三島に、連合赤軍のメンバーと同じ"怒り"という共通項を見いだしたと言えるかもしれません。

 若松監督は『性賊セックス・ジャック』と『天使の恍惚』が40年ほど前に監督週間で上映されていますし、1976年にはプロデューサーを務めた大島渚監督の『愛のコリーダ』も監督週間で上映されて大きな話題を呼んだので、カンヌのまったくの"新顔"ではありません。25日夜10時の正式上映には若松孝二監督を始め、三島由紀夫役の井浦新さん、森田必勝役の満島真之介さんが姿を見せ、会場から大きな拍手を受けていました。

 実は今年のカンヌにはもう1本、日本映画がありました。学生の作品を集めたシネフォンダシオン部門に選ばれた秋野翔一監督の『理容師』という39分の中編で、引退した父親と姉弟、姉の夫という理容師一家の日常を、弟が結婚して自立する日まで描いたもの。ちょっと小津安二郎の『麦秋』を思わせる家庭劇ですが、ローアングル、切り返しといった有名な小津的テクニックは使わず、登場人物の心の動きを、奇をてらわず、丁寧に描いているところに好感を持ちました。写真(下)は23日に行われたシネフォンダシオン部門の会場で、上映前に挨拶する秋野監督です。

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(齋藤敦子)