シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(10完)パルム・ドールにハネケ監督の『愛』

2012/05/29

0529.jpg 5月27日夜に授賞式が行われ、ミヒャエル・ハネケ監督の『愛』=写真=に最高賞のパルム・ドールを授与して、今年の映画祭がすべて終了しました。ナンニ・モレッティ審査員長に名前を呼ばれたハネケ監督がエマニュエル・リヴァを連れて壇上に上がると、舞台袖からジャン=ルイ・トランティニャンが現れ、会場を埋めた2000人の観客が一斉に立ち上がって、この2人の名優とすばらしい演出家に大拍手。隣の会場のスクリーンで中継を見ていた私達プレスも、この感動的な幕切れに、心からの拍手を贈りました。

 授賞式後の記者会見で、ナンニ・モレッティは"全員一致で決まった賞は1つもない"と言っていたように、審査は難航したようです。フランスのプレスが噛みついたのはレオス・カラックスが無冠に終わったことで、私もカラックスとレネの意欲作に何の賞も与えられなかったことをとても残念に思いました。

 一番驚いたのは『リアリティ』のグランプリ受賞。コンペの他の作品と比べて、かなり見劣りがすると思えた作品で、やっぱりモレッティはイタリア人なんだなと思いました。この賞はカラックスが獲るべきだったと言うプレスも大勢いました。

 意外だったのは『闇の後の光』のカルロス・レイガダスが監督賞を受賞したこと。審査では、エルリッヒ・ザイドル、レオス・カラックス、カルロス・レイガダスが残り、議論していくうちにレイガダスに絞られたとのこと。『闇の後の光』は、レイガダスが生まれ育った土地や生家を使って彼の心象風景を綴った、いわば半自伝的な作品で、ストーリーらしいストーリーはないのですが、どうやって撮ったのか不思議なほど美しい映像が幾つも登場する、忘れられない作品でした。

 今年のカンヌで強く感じたのは"映画"の時代が終わろうとしていることでした。私がカンヌに通うようになってから、フェデリコ・フェリーニ、ミケランジェロ・アントニオーニ、黒澤明といった映画の黄金時代を築いた巨匠たちが次々に亡くなりました。その後も映画の死は途切れることなく、今また、ラウール・ルイス、テオ・アンゲロプロスといった、代表作を同時代に見て育った名匠たちが姿を消そうとしています。映画の代名詞だったフィルムさえ、映像のデジタル化によって過去のものとなりました。

 "映画は死を記録する"とジャン=リュック・ゴダールは言いました。私達は"今"という時間の流れの中にいるのですが、カメラに映された瞬間、その時間は止まってしまうからで、映画の中の時間はすべて過去の死んだ時間だということです。レオス・カラックスは"映画作家は1つの美しい島で、そこには大きな墓地がある"とも言っていました。彼の大きな墓地には、映画という死んだ時間がたくさん埋葬されていることでしょう。

 けれども、映画は死ぬことによって永遠の時間を獲得できるのだ、そんなことを、監督週間で特別上映されたラウール・ルイスの遺作『向かい側の夜』を見ながら考えていました。ルイスやアンゲロプロスの新作をもう見られないのは悲しいことですが、彼らが残した映画は永遠に生き続けていくのです。

コンペティション部門
パルム・ドール
『愛』監督ミヒャエル・ハネケ
グランプリ
『リアリティ』監督マッテオ・ガローネ
監督賞
カルロス・レイガダス『闇の後の光』
審査員賞
『天使の取り分』監督ケン・ローチ
男優賞
マッツ・ミケルセン『狩り』監督トマス・ヴィンターベア
女優賞
クリスティナ・フルトゥル、コスミナ・ストラタン
『丘の向こうに』監督クリスティアン・ムンジウ
脚本賞
クリスティアン・ムンジウ『丘の向こうに』
短編コンペティション部門
パルム・ドール
『サイレンス』監督L・レザン・イェシルバス
ある視点部門
ある視点賞
『ルシアの後』監督ミシェル・フランコ
審査員特別賞
『大いなる夜』監督ブノワ・デレピーヌ、ギュスターヴ・ケルヴェルン
女優賞
シュザンヌ・クレマン『ローランス・オールウェイズ』監督グザヴィエ・ドラン
エミリー・デュケンヌ『理性を失うまで』監督ジョアキム・ラフォス
スペシャル・メンション
『ジェカ サラエボの子供たち』監督アイダ・ベジク
カメラ・ドール新人監督賞
『ビースト・オブ・ザ・サウザン・ワイルド』監督ベン・ゼイトリン
シネフォンダシオン部門
1等
『路上で』監督タイシア・イグメンツェヴァ
2等
『アビゲイル』監督マシュー・ジェームズ・ライリー
3等
『ロス・アンフィトリオネス』監督ミゲル・アンヘル・ムレ
技術賞(VULCAIN)
シャルロッテ・ブルウス・クリステンセン、『狩り』の撮影に対して
国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)
コンペ部門
『霧の中』監督セルゲイ・ロズニツァ
ある視点部門
『ビースト・オブ・ザ・サウザン・ワイルド』監督ベン・ゼイトリン
監督&批評家週間部門
『ホールドバック』監督ラシッド・ジャイダニ


10_1.jpg パルム・ドール 『愛』ミヒャエル・ハネケ監督


10_2.jpg グランプリ 『リアリティ』マッテオ・ガローネ監督


10_3.jpg監督賞 『闇の後の光』カルロス・レイガダス監督


10_4.jpg審査員賞 『天使の取り分』ケン・ローチ監督


10_5.jpg男優賞『狩り』マッツ・ミケルセン


10_6.jpg女優賞と脚本賞 『丘の向こうに』 左からコスミナ・ストラタン、クリスティアン・ムンジウ監督、クリスティナ・フルトゥル
(齋藤敦子)