シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)オープニングは「不本意な原理主義者」

2012/08/30

20120830.jpg 第69回ヴェネチア国際映画祭は、8月29日夜に開会式を迎えました。オープニングを飾ったのはインドのミラ・ナーイル監督の『不本意な原理主義者』。英国在住のパキスタン人作家モーシン・ハミッドの同名小説の映画化で、ニューヨークの企業コンサルタント会社に勤める有能なパキスタン人青年が、9.11事件をきっかけに祖国に戻って後進の教育を始めるが、おりから起こった大学教授誘拐事件の主犯としてCIAに狙われて...、というストーリーで、リズ・アフメド、ケイト・ハドソン、リーヴ・シュレイバー、キーファー・サザーランドらが出演しています。

 9.11といえば、その直前まで開催されていたヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞したのがナーイル監督の『モンスーン・ウェディング』でした。事件のあった9月11日は、私は帰国途中のパリでニュースを聞いたのですが、ナーイル監督はヴェネチアからトロント映画祭に回っていたときだったそうで、ニューヨークにいる家族や友人がとても心配だったと記者会見で語っていました。パキスタン出身の父親を持ち、今はニューヨークに住むナーイル監督が、この映画を撮ることになったのは当然の帰結だったかもしれません。

 今年のディレクターは、1999年から2001年までディレクターを務めながら、ベルルスコーニ政権誕生余波で、任期途中で解任されたアルベルト・バルベラが見事に返り咲きました。そして、昨年までの2期8年間、問題の多い映画祭の舵取りを続けたマルコ・ミュラーは、ベルルスコーニ政権がヴェネチアのライバルとして創設したローマ映画祭のディレクターに就任し、周囲をアッと言わせました。以前、カンヌやヴェネチアといった大きな映画祭のディレクターという職は、映画祭ヒエラルキーの頂点に当たり、任期を終えたら"上がり"で、他の映画祭に横滑りしたりはしないものだと聞いたことがあるのですが、とすれば解任後にトリノ映画博物館館長に就任したバルベラが返り咲いたのも、ローマに横滑りしたミュラーも例外中の例外で、映画の知識と人脈、政治的な手腕のすべてが要求される映画祭の運営はことのほか難しく、それだけ得難い才能の持ち主だということでしょう。

 今年のコンペ部門は、テレンス・マリック、ブライアン・デ・パルマ、ポール・トーマス・アンダーソン、ウルリッヒ・ザイドル、マルコ・ベロッキオなど18本で、23本だった昨年に比べて、ぐっとコンパクトになっています。昨年4本だった中国映画はゼロ、韓国からキム・ギドクがエントリーしました。

 日本からは、コンペ部門に北野武監督の『アウトレイジビヨンド』、オリゾンティ部門に若松孝二監督の『千年の愉楽』がエントリー。また、コンペ外特別招待作品として、WOWOW制作の黒沢清監督の『贖罪』全5話を270分に再編集した版が上映されます。

 今年の審査員長は映画監督のマイケル・マン。他に女優のレティシア・カスタ、サマンサ・モートン、監督のピーター・チャン、アリ・フォルマン、マッテオ・ガローネら、全部で9名で審査を行います。

 写真は、29日夜の開会式の会場前の模様です。

(齋藤敦子)