シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)古典をデジタル修復/「天国の門」「カルメン故郷に帰る」

2012/09/03

2012vene03_01.jpg
 今年はコンペ部門の作品が昨年より5本も少なくなったことは前のレポートでお伝えしました。これは経済不況を背景にした文化予算の削減という現実的な問題の反映なのはもちろんですが、ディレクターのアルベルト・バルベラが、拡大するばかりの映画祭の方向性を再考し、コンパクト化を図った結果でもあり、コンペだけでなく、全体的に上映作品の本数が少なくなっています。とはいえ、映画祭期間中に1人の人間が見られる映画の本数は一定なので、精鋭化という意味でのコンパクト化は個人的には大歓迎です。

 もう1つの大きなニュースは、新しいパラッツォ・デル・チネマ(映画宮殿)を建築する計画がついに放棄され、掘り返されたままだった建築用地が埋め戻されることになったというもの。これで会場のキャパシティを増やすという手段がなくなり、手持ちの会場をリフォームしながら使い回さねばならなくなったということで、映画祭のコンパクト化は必然だったと言えるでしょう。

 それでも、トリノ映画博物館館長という肩書きを持つバルベラらしい新企画もあります。それが、修復されたクラシック作品を集めた"80!"で、今年がヴェネチア映画祭の生誕80周年であることを記念した名称です。これまでもレトロスペクティヴの中で修復版を上映することはあったのですが、それだけを集めた部門は初めてで、ジャンルも年代もバラエティに富んだ作品が集められています。

 "80!"のトップを飾って30日に上映されたのがマイケル・チミノの『天国の門』です。記録的な不入りで製作したユナイテッド・アーティスツ社を倒産させたことで悪名高い作品ですが、その後の混乱でオリジナル・ネガが失われたため、修復作業は非常に困難だったそうです。

 上映に先立ち、ペルソル賞の授賞式が行われ、ペルソル社からマイケル・チミノにトロフィーが贈られました。写真(上)はそのときの模様で、中央がチミノ、向かって左がディレクターのアルベルト・バルベラです。上映後は長いスタンディング・オベーションが続き、なかなか立ち去らない観客に囲まれて拍手を受けていたチミノは、感激のあまり観客1人1人の手を握っていました。

 "30年間無視してきた作品を、何を今さら"というのが、修復の話を聞いたチミノの最初の反応だったそうですが、名撮影監督ヴィルモス・ジグモンドの技術の結晶ともいうべきこの作品に本当の光が当たるのは、まさにこれからだと思います。 

2012vene03_02.jpg
 続いて31日には、修復された日本のクラシック作品が上映されました。それが木下恵介監督の『カルメン故郷に帰る』です。今年のカンヌでも木下恵介生誕百年記念の第1弾として、修復された『楢山節考』が上映されましたが、これは第2弾にあたり、この2本は世界各地の映画祭で上映された後、11月に東京・東劇でデジタルリマスター版としての日本初上映が行われるそうです。

 『カルメン故郷に帰る』は日本映画初のカラー作品で、初めてづくしの撮影がどんなに大変で、珍妙だったかは主演の高峰秀子さんの著書<わたしの渡世日記>にも面白可笑しく語られていますが、特殊な撮影方式をとったために、修復作業も大変だったそうです。が、結果はすばらしく、当時公開されたプリントよりも美しくクリアに仕上がっているのではないかと思うほど。クラシック映画は世界遺産に匹敵する大事な文化遺産です。修復されたこれらの作品を、1人でも多くの若い観客に見てもらい、日本映画の奥深さを知ってもらうのと同時に、次の世代に伝えていく役割を担ってもらいたいと切に願います。

 写真下は、上映前に、日本映画通で知られる『CUT』のアミール・ナデリ監督が、木下恵介監督と『カルメン故郷に帰る』について短いレクチャーを行っているところです。
(齋藤敦子)