シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)70ミリ映像の迫力に作家の気骨/「ザ・マスター」

2012/09/03

2012vene04_01.jpg  週末を迎えた9月1日の土曜日に、今年の最大の目玉の1本、ポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』が上映されました。正式上映の日の朝、プレス用の上映があるのですが、今まで見たこともないような数のジャーナリストが会場入口に列を作り、期待度の高さをうかがわせました。

 『ザ・マスター』は、どこにも馴染めず放浪する男(ホアキン・フェニックス)と、怪しげな教団を率いる教祖(フィリップ・シーモア・ホフマン)の関係を描いたもの。トム・クルーズなどのハリウッド・スターが数多く入信しているので有名な宗教団体サイエントロジーをモデルにしているということで、早くから話題になっていました。

 映画は、立場は正反対ながら、どこかで惹かれあう男と男の関係を濃密に描いているのですが、驚くのは70ミリで撮られた映像の迫力です。映画界でもデジタル化が進み、すべてが簡便・簡略化されている今、この作品のアンダーソンといい、IMAXで『ダークナイト・ライジング』を撮ったクリストファー・ノーランといい、簡便とは真逆の方法をあえて選んだことに映画作家としての気骨を感じました。

2012vene04_02.jpg

 写真は記者会見の模様で、上がポール・トーマス・アンダーソン監督、下がフィリップ・シーモア・ホフマンとホアキン・フェニックスです。別人と見間違うほど体重を落として役に入れ込んだフェニックスと、冷静で完璧なホフマンとの演技合戦が映画の大きな見どころです。

 翌日の日曜日には、もう1本の目玉、テレンス・マリックの『トゥー・ザ・ワンダー』が上映されました。マリックは昨年のカンヌ映画祭で『ツリー・オブ・ライフ』でパルム・ドールを受賞しており、寡作で知られる監督の作品が立て続けに映画祭に出品されるというのは喜ばしい出来事です。

 『トゥー・ザ・ワンダー』は、アメリカ人男性(ベン・アフレック)と出会い、結婚したフランス人女性(オルガ・キュリレンコ)の心の彷徨を描いたもので、台詞はなく、登場人物の独白で進んでいきます。

 この作品の見どころもまた圧倒的な映像の美しさ。フランスのパートで登場するモンサンミッシェルやヴェルサイユ宮殿といった絵葉書のように美しい映像はもちろんですが、手持ちカメラで撮られたごく普通の日常に、主人公の心の動きが投影されているように見えるのはさすがでした。

 実はマリックもアンダーソンもカンヌへの出品が噂されていたのですが、それが2本ともヴェネチアが"奪った"ことについて、ディレクターのアルベルト・バルベラは、"今は映画祭が作品を選ぶのではなく、映画会社が映画祭を選ぶのだ"と語っていました。つまり、より公開に有利な映画祭が選ばれるわけで、イタリア映画はもちろんのこと、前のレポートでも触れたフランス映画『スーパースター』なども、国内での公開に合わせて出品されています。

(齋藤敦子)