シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(6)奇妙で危うい親子関係/復活、ギドク監督の新作「ピエタ」

2012/09/07

20120907_01.jpg 映画祭も終盤に入り、賞の行方が話題に出るようになりました。ここまでのところ、批評家に評判がいいのは、ポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』とキム・ギドクの『ピエタ』の2本です。

 キム・ギドクといえば、私が彼の映画を初めて見たのは『魚と寝る女』で、2000年のヴェネチアでした。その後、2004年に『サマリア』でベルリン映画祭銀熊賞、『うつせみ』で同年のヴェネチア映画祭銀獅子賞と順調にキャリアを伸ばしていました。そんな順風満帆な彼が、2008年の『悲夢』を最後に、ふっつりと映画界から姿を消し、何があったかと思わせたのですが、その間の事情を背景に、自分の映画人生を振り返るドキュメンタリー『アリラン』を撮って、昨年のカンヌ映画祭ある視点賞を受賞、見事復活を遂げたのも記憶の新しいところ。

 『ピエタ』は、借金を払えない債権者には大怪我を負わせて保険金で支払わせるという、血も涙もない借金取り立て屋の若い男の前に、男を捨てた母親だと名乗る謎の女が現れ、男の人生を狂わせていくというストーリー。独特のけれん味たっぷりの演出で、奇妙で危うい親子関係に観客をぐいぐい引っ張り込んでいきます。ピエタとは"悲哀"という意味で、特にキリストの遺体を膝に抱いて嘆くマリア像のことを言います。

 見事復活を遂げたといえば、コンペの『スプリング・ブレイカーズ』のハーモニー・コリンもそうです。
 コリンは19歳でラリー・クラークの『キッズ』の脚本を書いた"恐るべき子供"。24歳のときに『ガンモ』で監督デビュー。2作目の『ジュリアン』を見たのが1999年のヴェネチアでしたが、難解で破綻した内容に、最後まで残って映画を見ていたプレスが数えるほどだったことを今でも強烈に覚えています。
 早く有名になってしまった天才肌の人にありがちな、大人になるのに苦労するタイプだろうと思っていたのですが、今回の『スプリング・ブレイカーズ』は、彼らしい研ぎ澄まされた感性に大人の客観性が加わって、過激でほろ苦い青春映画になっていました。

20120907_02.jpg ちなみに、"スプリング・ブレイク"とはアメリカの大学で3月にとる1週間の休みのこと。この時期に東海岸の学生は暖かいフロリダへ南下し、乱稚気騒ぎを繰り広げるのが恒例になっており、特にフォート・ローダーデールがメッカとして知られているそうです。映画は、フロリダへ行くために強盗までして費用を作った4人の女子大生が、地元のやくざな男と知り合うことによって、とんでもない状況に巻き込まれる様を、まるでドキュメンタリーのようなリアリティとポップな感覚で描いています。

 写真は記者会見の模様で、上は『ピエタ』のイ・ジュンジン(左)、チョ・ミンス(中)、キム・ギドク監督、下は『スプリング・ブレイカーズ』のハーモニー・コリン監督(左)とジェームズ・フランコです。


(齋藤敦子)