シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(7)ヨーロッパで意気盛ん/デ・パルマ監督の『パッション』

2012/09/08

 今年の18本のコンペ作品のうち、最も多い5本がアメリカ映画、続いてイタリア映画の3本、フランス映画の2本。アジアからは日本(北野武監督『アウトレイジビヨンド』)、韓国(キム・ギドク監督『ピエタ』)、中国映画はカンヌに引き続きゼロで、代わりにフィリピンのブリヤンテ・メンドーサ監督の『汝の胎』がエントリーしています。

20120908.jpg アメリカ映画の最後を飾って、7日に上映されたのがブライアン・デ・パルマ監督の『パッション』でした。フランスのアラン・コルノー監督の遺作のリメイクで、大手広告代理店のベルリン支社に勤める上司(レイチェル・マクアダムス)と彼女の下で働く助手(ノオミ・ラパス)の権力と愛をめぐるパワーゲームが殺人事件を引き起こすまでを描いたもの。製作はドイツ、フランスなど完全なヨーロッパ資本で、撮影はベルリンとロンドンで行われたので、監督がアメリカ人というだけでアメリカ映画と呼ぶには差し障りがあるかもしれません。ただ、デ・パルマのような名監督がハリウッドで撮れないこと自体に、今の映画産業の不健康さを感じるものの、現在ヨーロッパに拠点を移したデ・パルマは、"世界には見るべきところが沢山あるし、どんな国にもすばらしい俳優がいるものだ"と意気軒昂でした。

 写真は、記者会見の模様で、テレビ版『ドラゴン・タトゥーの女』で一躍スターになったノオミ・ラパスとブライアン・デ・パルマ監督です。

 ポール・トーマス・アンダーソン、テレンス・マリック、ハーモニー・コリン、ブライアン・デ・パルマという話題の多い作品に隠れて、忘れられそうになっている5本目のアメリカ映画がイラン系アメリカ人ラミン・バフラニ監督の『どんなことをしてでも』という、私にはちょっと気になる作品でした。

 映画は、アメリカ中西部の穀倉地帯アイオワを舞台に、大規模トウモロコシ農場を経営する父親ヘンリー・ウィップル(デニス・クエイド)と、家を出た兄に変わって農業を継ぐことを期待される弟ディーン(ザック・エフロン)の関係を描いたもの。ヘンリーは、遺伝子組み換えトウモロコシの種苗会社のセールスマンでもあり、常に1番にならなければならないプレッシャーに苛まれていて、無理矢理買い上げた土地が元で、思わぬ事態に追い込まれてしまいます。

 日本では今、TPP(環太平洋戦略的経済連絡協定)が問題になっていますが、協定が締結されたら日本の農業を圧迫するかもしれない遺伝子組み換え種子の市場をほぼ独占販売しているのがモンサント社というアグロバイオ企業です(映画ではリバティ・シーズ社)。この会社の遺伝子組み換えトウモロコシがメキシコの農業に大打撃を与えたことは、映画『モンサントの不自然な食べ物』でも描かれていますが、そのメキシコの農家を苦しめたトウモロコシを栽培していたのが、まさにウィップル家だったのです。では、彼らが豊かで幸せかというと、必ずしもそうではないことをバフラニは的確に表現していました。

(齋藤敦子)