シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(8)過去、現在を色調で分ける/チプリ監督の「息子だった」

2012/09/09

  コンペ部門のイタリア映画は、ダニエーレ・チプリの『息子だった』、フランチェスカ・コメンチーニの『特別な日』、マルコ・ベロッキオの『眠る美女』の3本。

  『息子だった』は、シチリアの貧しい一家の娘が誤ってマフィアに殺され、マフィアの被害者に支給される見舞金で、父親が高級外車を買ったことから起こる悲喜劇を描いたもの。監督のチプリは、フランコ・マレスコと組んで映画を作ってきた人で、この作品が単独監督としての第1作。撮影監督でもあるチプリは、現在を青、過去を黄色とオレンジを基調とする強烈な色調で、まるで舞台劇のような作品に仕上げていました。

  『特別な日』は、ローマ郊外の低所得者用の団地に住む女優志望の娘が、芸能界にコネを持つ代議士に会いにいく1日を、彼女を送り届けるために派遣された運転手の青年との交流で描いたもので、"ローマの休日"のような趣を持った作品でした。

  フランチェスカは、名匠ルイジ・コメンチーニの娘で、日本ではあまり知られていませんが、イタリアを代表する女性監督でヴェネチアの常連。それだけ、そつなく良質な作品が撮れる実力はあるのですが、それ以上ではないのが問題で、今回も上手く作ってあるけれど、社会派にしては深みに欠け、娯楽映画としてもパンチに欠けるように思われました。

  『眠る美女』は、2009年に、17年間植物状態だった女性エルアナ・エングラロの家族がそれ以上の延命措置を拒否して死を選んだことでイタリア中を安楽死をめぐる論争に巻き込んだ事件を背景にしています。

  主人公はベルルスコーニ政権が提出した延命停止を禁じる法案に投票を求められ、党の方針に反して反対票を投じようとする代議士(トニ・セルヴィッロ)。彼には安楽死に反対する教会側を支持する娘(アルバ・ロルヴァケル)がいるのですが、彼女はエルアナのいる病院の前で、安楽死を認める側の青年と恋に落ちてしまいます。また、自宅で植物状態の娘を介護する大女優(イザベル・ユペール)には、母親の愛情を姉に奪われて苦悩する息子がおり、無神論者の医師(ピエロ・ジョルジョ・ベロッキオ)は自殺未遂の女性ロッサ(マヤ・サンサ)を何とか救おうとするが、という群像劇です。

  昨年、名誉金獅子賞を受けたベロッキオは、誰もが認めるイタリア映画界の巨匠ですが、巡り合わせが悪いのか、カンヌでもヴェネチアでも最高賞を受賞したことがありません。これまで彼が最も金獅子に近かったのは、『夜よ、こんにちは』という傑作を出品した2003年でしたが、ロシアの『父、帰る』にさらわれ、芸術貢献賞という小さな賞に終わりました。この年の審査員長はイタリア人のマリオ・モニチェリで、普通に考えればイタリア映画に有利なはずなのに、そこにイタリア映画界の複雑さを垣間見た思いがしたものです。ちなみに、このとき『座頭市』で北野武監督が銀獅子賞(監督賞)を受賞しています。

  さて、イタリア映画界の期待を一身に集めるベロッキオが念願の金獅子賞を獲得し、9年前のリベンジを果たすことができるでしょうか。

20120909_00.jpg  写真は、会場に飾られたライオン像で、名美術監督のダンテ・フェレッティが手がけたものです。
(齋藤敦子)