シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)震災、福島はあえて意識せず/矢田部吉彦プログラミング・ディレクターに聞く

2012/10/27

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-矢田部さんがプログラミング・ディレクターになって6年目ですが、東京映画祭の矢田部色というのは?

 矢田部 自分からは言いにくいですが、1つ意識していることは、アートとしての映画を擁護すること。映画祭本来の役割はそこにあると思いますので、そこを踏み外さない、勘違いしないという前提を踏まえたうえで、国内の配給につながるようなセレクションをやってきました。ワールドシネマを作ったというのもそういう意図で、それが、ここ5、6年で、ある程度定着してきたのかなとは思っています。よくも悪くも『最強のふたり』が、象徴的な出来事だったかもしれません。去年、あれをコンペに入れるかどうか迷った末に入れて、結果、フランスで大ヒットして、世界中でヒットして、日本でも配給が決まってヒットしたというのは、トライしてきたことが実を結んだことの1つだったかもしれませんけど、それが矢田部色かと言われると、わかりませんね。もう1つは、やはり、なるべく新しい作品をやりたいということは常々思ってます。今年のセレクションは、1本を除いて、ほぼ2012年後半の作品です。ヴェネチア、トロントという秋のサーキットの流れで発表される作品を東京にもタイミングよく持って来たいというのを心がけつつ、その中で監督の個性がきちんと出ている作品を絞っていったという感じでしょうか。

-『最強のふたり』で言えば、あれをコンペに選ぶのは禁じ手だなと私は思いました。東京はミシェル・アザナヴィシウスの『OSS117』のときに身に染みてわかっているはずなのに、またやったのかと。カンヌも『アーティスト』で同じ失敗をしましたし、作品を選ぶ側と賞をあげる側が違うので、どうしても起こる問題だとは思うんです。ただ、映画ファンの質がどんどん変わってきているうえに、映画ファン自体もいなくなっている。だから『最強のふたり』や『アーティスト』のような商業映画が映画祭のセレクションに入ってきてしまうのも仕方がないかなとは思っているんです。矢田部さんが目指していた、いわゆる大粒化は業界の要請でもありますし、映画祭を一般に広げるための要請でもあるわけですが、ちょっと危険な綱渡りではありますね。今年のセレクションはいかがですか。小粒化した?

 矢田部 弱冠反動が来てるかもしれないですね(笑)。小粒化というか、作家主義的化というか、どちらかというと監督の個性が出ているものに、最終的にはこだわりました。それが結果的に小粒化になるかはわかりませんけど。ただ、今年も充実しています。

-映画祭のセレクションは、劇場で公開される商業映画より進んだ感じになるんですが、審査員が映画人であっても、今の映画をそんなに見ているわけではないので、少し齟齬をきたすわけです。今年の審査員長ロジャー・コーマンは?

 矢田部 非常に楽しみなのは、コーマンはB級とかジャンル映画の神様という面で語られがちですが、しっかりゴダール、トリュフォーをアメリカに配給していた人でもあるわけで、そこら辺の彼なりのバランス感覚というのが、どのように発揮されるのか楽しみです。

-日本映画は、今年は1本なんですか?

 矢田部 2本です。奥原浩志さんの『黒い四角』は、中国で撮ってはいるんですが、日本映画なので。

-日中合作?

 矢田部 合作ではなくて、日本映画です。日本映画の2本は非常にチャレンジングです。松江哲明さんの『フラッシュバックメモリーズ3D』は大傑作だと思うし、日本映画ある視点から付き合いが始まって、満を持してコンペに出て来たという、こういう作家との付き合い方というのは面白いと思うし、まだ国際的に名の知れた人ではないので、これがブレークスルーになればいいなと思っています。

-コンペティションのお薦め作品などについては、他のところでも書いていらっしゃるので。

 矢田部 そうですね。それをやり始めると全部になっちゃう。

-ワールドシネマは、私にとっては一番知っている作品が多いですね。レイガダスの『闇の後の光』が一番凄いと思ったけど。

 矢田部 これはここで見ないと、たぶん一生見られないと思います。前回彼の特集をやった縁がありますし、今年のカンヌの大問題作の1本でもあったわけで。オリヴィエ・アサイヤスの『五月の後』は、見たときに大傑作だと思ったんですが、ヴェネチアでの反応はそうでもなかったようですね。レイモン・デパルドンの『フランス日記』は、絶対にやりたかった作品です。デパルドンが日本であまり知名度が高くないので、何とかしたいなと。

-日本でもっと知られていい作家ですね。ワイズマンと並ぶくらいの人です。それで、私はnatural TIFFにちょっと言いたいことがあるんです。震災から1年たって、ちまたでは震災やフクシマを題材にした映画が結構あるのに、TIFFにはさっぱりないですね。

 矢田部 各部門に散ってます。あえてnatural TIFFで震災ものは扱わず、エコロジーを結構がっつり正面から行こうとしました。今の日本の監督で意識的な人であれば震災を意識していないわけがないわけで、それが表に出ているか潜在的に流れているかの違いであって、基本的に特集を組む必要はないと思っています。

-私は、今エコロジー問題を考えるうえで、フクシマをおいては何も考えられないと思っているんですが。

 矢田部 僕ら、natural TIFFの作品を春先からずっと捜していて、今年はここ5年の中で一番沢山の候補から絞り込んでいったんですけど、ほぼ外国映画になってしまったというのもあるんですが、フクシマを本当に意識しなかったですね。あえて入れるとか入れないとかではなく、とにかく映画として面白いものを選んでいったということではあります。

-その他、矢田部さんが関わっているセクションというと?

 矢田部 日本映画ある視点ですが、今年もまたまたかなりディープにインディペンデントという感じです。

-矢田部さんが見た日本映画の現状は?

 矢田部 やっぱり本数が多いですね。ものすごい量が作られていて、ここ数年で検討した本数が一番多かったです。ただ、作ったはいいけど、見せることを意識していない作品も多くて、ゴールを意識していない作品が多いですね。
                  (10月4日、東京国際映画祭事務局にて)


(齋藤敦子)