シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)地域を超えた映画作りも/アジアの風、石坂健治プログラミング・ディレクターに聞く

2012/10/29

20121029.jpg-今年はヴェネチア映画祭でキム・ギドクが韓国映画初の金獅子賞を獲り、韓国映画が奮闘した年でしたが、石坂さんは今年のアジアの映画地図をどのように感じましたか?

 石坂 韓国はかなり目立った動きがありましたね。映画祭での評判もそうですが、プサン映画祭の規模などには凄いものがあります。あそこのアジア映画のセクションは<アジアの窓>と言うんですが、4倍くらいの本数を上映しています。我が<アジアの風>は、量では負けても、ちゃんと1本ずつ丁寧に扱おうとしています。配給面でも、日本にはまだミニシアター文化がありますが、韓国にはないんです。たとえばエドワード・ヤン作品でも映画祭では紹介するが、それっきりなんです。最近痛感しているのは、80年代以降の日本のミニシアター文化はアジアでは独特の現象だったということですね。

-日本でも今ではシネコン化が進行し、渋谷のシネセゾン渋谷が2月に閉館し、シアターN渋谷も12月についに閉館という状況ですが。

 石坂 ただ、中国を含め、アジアではアート系の映画監督が自分の作品を自国で発表できる場がまだまだ少ないんです。日本では、その受け皿というか、映画祭で花火のように打ち上げるだけとは違う紹介ができるのではないかと思っています。それで、韓国映画ですが、今年一番選ぶのに苦労したのが韓国なんです。ものすごい数の作品が既に日本配給が決まっている。<アジアの風>は配給なしの作品のショーケースと考えているので、いいなと思ったものが全部決まっていて、それはいいことなんですが。

-以前、韓国映画は日本での興行がうまく行かなくなっていたようですが、盛り返したんですか?

 石坂 今年のカンヌで日本のバイヤーがいっぱい動いていたという話は聞いていたけど、確かに相当買っていますね。後はDVDスルーではなく、きちっと公開されることを願うばかりですが、そういうものを含めて、非常に元気になったというか、なってきているのではないでしょうか。

-中国は?

 石坂 本数からいったらものすごい伸びです。年々100本くらい右肩上がりで増えていて、どんな切り口で選ぶべきか難しくなっています。インディーズの作家も最近は、ちゃんと製作許可をとる人たちもいるし、相変わらず許可なしで撮ってヨーロッパでお披露目という人たちもいる。

-今年はヴェネチアのオリゾンティ部門で王兵の受賞があったとはいえ、中国映画はあまり振るわなかったように思います。メジャー系の作家と王兵のようなインディーズ系の作家の間にギャップが出来ていて、昔の張芸某や陳凱歌のような、規模も大きくクオリティもある作品がなくなり、インディーズ系の作品だとカンヌのような大きな映画祭のコンペにはちょっと物足りない、というような。

 石坂 大柄な作品で、中身はないが香港の映画スターがいっぱい出ているとか、あるいは韓国まで巻き込んだ共同製作とか、スケールの大きな作品は、本土とか韓国とかという地域を越えた作り方になっています。例えば玉木宏がチョウ・ユンファと共演している三国志の時代の映画『銅雀台』とか。韓国のホ・ジノがシャン・ツィイーやセシリア・チャンなど、中・韓・香港のスターを集めて作っている『危険な関係』のリメイクとか。あの作品も決して成功しているとは思わないですが、ああいうでっかいものを仕掛けるプロデューサーが両国にいるわけで、質はともかくその動きは加速していますね。韓国、中国は国策で映画をプロモーションしている国の代表です。

-台湾は?

 石坂 商業的にきちっとペイできるようになってきています。あそこも元気は元気だけど、娯楽映画ばかりになって、逆に"いかがなものか"というような意見が評論家の側から出て来ている。しかし、この好調をもうちょっと維持していけば、またとんがった人たちも撮れるようになっていくのではないかと期待はしているんです。

-政治的に揺れている中東の方はいかがですか?

 石坂 応募作の中にはアラブの春の後を描いた作品がぼちぼち入っていました。それはそれで、レポートとしては興味深く、その辺を見たい人もいるとは思うんですが、作品の表現としてはもう少し時間がかかるという感じです。イランもまだまだわかりませんし。中東の映画は今年はスパッと減ったんですが、来年なんとかアラブの春以降の作品を紹介できたらなと思います。

-周辺があれだけワサワサしていると落ち着いて映画を撮っていられないですからね。
今年はインドネシアの特集がありますが。

 石坂 今年は25回目なので、ゆかりのある人たちに久々に登場してもらいます。たとえばガリン・ヌグロホ、それからアソカ・ハンダガマというスリランカの監督、カザフのダルジャン・オミルバエフ、香港のパン・ホーチョンなど。インドネシアは、スハルト独裁が終わった後、風通しがよくなり、スハルト時代は年間製作本数がゼロとか1本のときもあったのに、このところ年間100本まで盛り返して来たので。

-スハルト政権は映画産業を振興しなかったんですか?

 石坂 検閲が厳しかったので、国内の作家は窮屈だったんですね。ただ映画館のチェーンを一族で独占していたので、外国映画は沢山輸入されていました。インドネシアも映画の王国ではあるんで、今はまた娯楽映画もアート系もホラー映画も、かなりバラエティに富んできています。それで現在進行形のレポートをしたいなと思いまして。

-特に3人の監督を選ばれていますが。

 石坂 <インドネシア・エクスプレス>でアート系のインドネシア映画を、<ディスカバー亜州電影>でホラーというジャンルのカンボジア映画を、ということを考えました。ヌグロホは今ではもうお馴染みの監督ですが、彼が最初にTIFFでヤングシネマ・ゴールド賞をとったのが『天使への手紙』という作品で、これは94年の京都大会だったんです。あのときの本命は『多桑/父さん』というホウ・シャオシェンの仲間だったウー・ニェンツェンの作品で、あそこに行くと思ったら審査員長がロジャー・コーマンで、ヌグロホをえらく気に入って彼に賞をあげたので、皆がびっくりしたんです。彼はあそこからインドネシアで認められるようになった。今年コーマンと再会を果たすことになるのが個人的にも楽しみです。ヌグロホは今年2本撮っていて、『目隠し』は、原理主義集団に誘拐された少女を描いて、国内で物議をかもした作品だし、『スギヤ』はほとんどデヴィッド・リーンみたいな、神父さんの伝記映画です。

 リリ・リザはジャカルタ芸大でヌグロホの生徒だった人です。<アジアの風>で上映する彼の2本はインドネシアの木下恵介で、特にこの『虹の兵士たち』というのはほとんど『二十四の瞳』といっていい。離れ小島で、若い女性教師と貧しい子供たちが交流する話で、インドネシア映画史上ナンバーワンのヒット作です。『夢追いかけて』はその続編の高校生版です。そういう人なんだけど、今回コンペに出る『ティモール島アタンプア39℃』という作品は、ほとんどヌグロホ化している。師匠の方が『スギヤ』でデヴィッド・リーン化していて、この師弟関係が面白い。一番若いのがエドウィンで、78年生まれ。インドネシア映画初のシュールレアリズム作家です。オランダはインドネシアの旧宗主国なので、彼は今、オランダで勉強していて、彼だけはアムステルダムから来ます。というわけで三人三様ですね。

-それで、"伝説のホラー&ファンタ王国カンボジア"特集ですが。

 石坂 タイやインドネシアの監督に聞いても小さい頃はカンボジアのホラー映画を見ていたと言う。昔からそういう話を聞いていたんです。東南アジア一帯がホラー王国と言われています。暑いからゾッとする映画が好きという下らないものから、土着の豊かな自然信仰と後から入ってきた宗教との心理的な葛藤があり、土着の側がホラーという形を借りて出て来るという人類学的な説まで、諸説あるんですが、理由はさておき、カンボジア・ホラーは資料がほとんど残っていなかったんです。ポル・ポトの時代に映画人も粛正され、フィルムも焼かれ、『華氏451』ではないけれど...。

-"焚書坑儒"ですね。

 石坂 今は、亡命した先のフランスで生まれた若い映画監督が映画史を発掘する時代になり、ダヴィ・チュウが『ゴールデン・スランバーズ』というドキュメンタリーを撮っています。また、カナダにフィルムを抱えて逃れた老巨匠ティ・リム・クゥンがそのフィルムをやっと発表することになって、今年のベルリン映画祭でも上映されたのが『怪奇ヘビ男』です。最近リティー・パニュがプノンペンにフィルム・アーカイブを作ってFIAF(国際フィルム・アーカイブ連盟)から表彰されています。

 カンボジアでは、1960年から、ベトナム戦争終了と同時にポル・ポト派が入ってきた1975年までの15年間に400本作られたという記録があるんですが、パニュによると、ポル・ポトの焚書を逃れて残っているのが30本、上映できるものはそれよりさらに少ないということです。若いチュウ監督が作った『ゴールデン・スランバーズ』で、カンボジアの映画史発掘ドキュメンタリーを見てもらい、その中に断片で出て来る古い作品をまるごと2本上映する目玉の企画で、早くも新聞の社会面から取材の申し込みが来ていますし、映画ファンの間で話題になっていて、チケットは早くも売り切れているようです。『怪奇ヘビ男』は東南アジアの人なら誰でも知っている映画で、今回はインドネシア大使館もそうですが、カンボジア大使館の人たちがとても熱心に応援してくれています。

-今のカンボジア映画界の状況は?

 石坂 復活のきざしが出て来ています。何にもなかったところにリティー・パニュの尽力があったりで、少しずつ映画が作られるようになってきたようです。まだ見たことはないんですが、復活してもまたホラー映画を作っているらしい。

-皆が一番見たいのがホラーなのかもしれませんね。幽霊がいっぱいいそうですし。

(10月11日、東京映画祭事務局にて)

写真は、上梓されたばかりの共著<アジア映画の森――新世紀の映画地図>を手にした石坂健治氏。

(齋藤敦子)