シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(7完)日本映画の新たなマーケットが必要/ユニジャパン 西村隆事務局長に聞く

2012/11/05

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 ここ数年、東京映画祭の前に、出品される映画と世界の映画界の状況について、二人のプログラミング・ディレクターに、お話をうかがってきました。今年は、日本映画を世界に発信する役割を担うユニジャパンの事務局長西村隆氏に、もう少し広い視野で、世界の中の日本映画について、お話をうかがいました。

-ユニジャパンはカンヌやベルリンなどの映画祭にブースを設けて、海外に向けて振興している団体ですが、どこまで仕事の視野に入っているんでしょうか。
西村 ユニジャパンの仕事には3段階あります。最初はまず海外の映画祭に働きかけて、海外の映画人やジャーナリストに日本映画を知ってもらい、認知を高めること。たとえば、海外の映画祭に出品する映画を支援する、これは文化庁に委託されてユニジャパンがやっている仕事ですが、映画祭に参加する映画人の渡航費とか、字幕の支援とかです。

-映画祭への出品支援というのは、金額的にはどのくらい?
西村 基本は実費の半額です。上限があって、渡航費は4人までで上限が全部で40万円。当然エコノミーしか出ませんね。1件あたりの金額はそれほど大きくはありません。字幕支援も1件70万が上限ですから。カンヌ、ベルリン、ヴェネチアのコンペ部門に出品する場合は上限300万円なんです。ああいう大きな映画祭だと、通訳とかプレスアタッシェも全部雇わなければいけない。映画祭が出してくれるのは監督と俳優の3泊分の宿泊費程度で、渡航費も出ないので、出品すると全部で1千万とか2千万とか、費用がかかってしまうわけです。コンペだと広告やらパーティやらがありますから。それで高めに設定してあります。それが第1段階。第2段階が、映画祭に留まらず、海外の一般の観客に日本映画を見せる仕事です。

-海外配給支援?
西村 そうです。映画祭にブース出店をして、映画会社のセールスの人に使ってもらって、がんばって日本映画を売り込んでもらう、そういうことです。第3段階は、映画を作る前に外国からお金を引っ張ってこよう、ということで、共同製作の支援という仕事。これを去年から始めたわけです。これも文化庁の仕事を委託でうちがやっているということで、お金は文化庁から出ているわけですが。

-具体的には?
西村 去年は5本支援しました。うち2本がアニメーション、3本が実写で、そのうちの1本がアッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』です。初年度でカンヌのコンペに出られたので、まあまあよかったかなと。

-海外に日本映画を知らせるという面では、映画祭にブースを出す以外に、どんなことをやっているんですか?
西村 基本的にインフラとしては情報提供です。今、ウェブサイトで日本映画のデータベースを作って、ネット上で見ることが出来る。そこに作品の概要、監督のプロフィールといった情報に予告編もついていて、興味がある人はそこに載っている連絡先にどうぞ、みたいな。段階で言うと、その3ステップなんですが、具体的にやってることは、まず情報の交流を活発にすること、情報発信ですね。それから物の交流、それは製作支援のようなこと。それから人の交流、TIFFやTIFFCOMや、海外のマーケットに日本の映画会社に参加してもらったり、そこでレセプションをやったりとか。情報と物と人の交流ですね。

-東京映画祭の場合、最初は華々しかったけれど、最近は予算が少なくなって海外から来るジャーナリストも激減しています。映画祭というのは記事が出て初めて外に知られるわけなので、情報発信力という意味ではプサンなど他の映画祭に比べて、大きく落ちている気がするんですが。
西村 ヴァラエティなどの業界紙の記者は今も来ているし、招待してもいるんですが、確かにジャーナリストの数は減りましたね。ただ、東京映画祭というのは、今でも世界の映画を日本に紹介しようという目的が強く、世界の人が東京に来て新しい映画を発見しようという目的はそれほど強くない。プサン映画祭だと、新しいアジア映画の発信が映画祭全体のテーマで、そのテーマに従ってすべてのプログラムが作られている。もちろん上映される作品はアジア映画だけじゃないが、企画マーケットも対象はアジア映画だし、アジアのフィルムコミッションの会合なんかもあそこでやるというように。その辺のキャラクター作りを比べると、東京映画祭はやや広いというか、焦点が定まってないというか、そういうきらいはありますね。

-東京もそろそろ立ち位置を決めた方がいいですね。プサン映画祭の方が後発なのに、すっかり追い抜かれてしまいました。
西村 プサンは世界的に見ても短期間であれだけ成功した映画祭は他にはないんです。プサンよりちょっと前に出来たロッテルダムやサンダンスも成功例だと思うけど、あそこはインディペンデント映画をテーマに作った映画祭ですから。

-毎年、東京映画祭に行くたびに、コンペの意義がどのくらいあるんだろうとか、日本映画をどんな風に世界に知らせようとしているのかとか考えてしまう。日本の映画産業は映画の未来について何にも考えてないのではないか。ただ目の前にある、売れる映画を作っているだけではないか、という気がします。日本の場合、映画が経産省と文科省に管轄が別れていることも問題なんですが、映画自体がなくなるかもしれないという話が出て来る時代に、いったい何をやっているのかという危機感を私は毎年感じるんですが。
西村 日本映画の国際化というのがユニジャパンの業務なわけだけど、日本映画の場合は、これまで国際化がそれほど必要とされてなかったんです。国内のマーケットがでかいから国内で完結できた。国際化は、その余りでやればいい程度の位置づけで、海外の映画祭へ出品することも、海外で商売することより、国内のプロモーションのために使われてきました。『おくりびと』がアカデミー外国語映画賞を獲って興行収入が倍になったりした、その効果です。日本の映画産業は国内のマーケットに立脚しているから、そこの構造を変えるのは無理なんです。ただ、この先、国内のマーケットだけに立脚していて大丈夫かというと、そうではない。映画の興収でいうと、この20年くらいずっと2000億円程度で続いていて、それ以上は行かない。たまたま2年前に『アバター』のヒットで2200億円になって喜んだけれど、去年1700億まで落ちて、今年はちょっと上がるだろうけど、2000億の壁は越えられないだろうという。そんな飽和状態なんです。シネコン化で映画館のスクリーン数は増えたけど、観客数は全然増えてないし、これから先、日本は人口がどんどん減っていくわけだから、新しいマーケットを見つけないと発展できない。新しいマーケットとは、やはり外国なわけで、それは今、映画をやっている人の誰もが考えていることだとは思う。ただ、まだそこまで行く蓄積がない。

-例えば?
西村 日本映画を売りに行く専門家がどれだけいるか。メジャーな会社の中には何人かいますが、それを日本映画全体で共有できているわけではない。海外セールスのノウハウもそうだし、ましてや共同製作となると、もっと経験者がいない。ジャーナリストだって、日本人として海外で発信できる人が何人いるかと考えると、いないわけです。映画専門の弁護士もいないし、そもそも、そういう人材を育ててこなかった。というか、必要としなかったから人材を育てるためのお金もかけてなかったんだけど、それも含めた全体を変えていかないと無理だと思うんです。よく"日本にはプロデューサーがいない"と言うけれど、プロデューサー個人ではどうしようもない問題がある。海外と共同製作をやろうというときに、外国人とやりとりできるプロデューサーが何人いるか。あれだけ頑張った一瀬隆重氏だって、会社が倒産しちゃうわけだから(注)。

-プロデューサーには倒産がつきものですから。
西村 映画産業では珍しくないし、また上がってくればいいだけの話ですが。

-では、人材育成もユニジャパンの仕事の1つになるわけですか?
西村 映画祭で来日する人と交流する場を設けたり、日本の映画人を映画祭に派遣して、コミュニケーションをとってもらって場になれてもらう。同時に、データベースで日本映画の情報を発信する。日本映画の情報で英語になったものが本当に少ないので。

-言葉の壁が大きいってことですね。でも、それは韓国も同じでは?
西村 韓国や香港はその国のマーケットが小さいから、外に出ざるを得ないんです。中国もそうだけど、あれだけ規制が厳しいと自分たちの撮りたいものは国内では撮れない。だから外国のお金を引っ張ってくるわけで、日本人と迫力が違う。

-日本はある意味恵まれている?
西村 中で安住できる。安住というと言葉がきついですが。

-国内のマーケットがあるから、映画を撮って自分の周りの人たちに見せて、ある程度ペイできるという計算が出来ないわけではない。
西村 外国へ行かなきゃいけないという、尻に火が付いてない。それに、僕らの時代はまだ、欧米に対するあこがれがあったけど、今はないですね。アメリカが凄いとは思わないとか、日本の方がいいと言う。映画や音楽も日本の方が面白いと言う人が多いです。

-作品の質はともかく、興行でも日本映画の方がずっと成績がいいですし。
西村 マーケットのシェアでいうと、日本映画は50%超えているわけで、世界的に見ても驚異的な数字なんです。アメリカとインドは別格として、それ以外では日本と韓国とフランスが自国の映画のマーケットシェアが高い国ですが、フランスなど、あれだけ自国の文化を大事にしていて、やっと40%くらい。日本は何もしてないのに60%近く行くわけです。

-それは今の若い人たちが自分の身の回りにしか関心を持っていないことの現れ?
西村 実は自国の映画のシェアが上がっているのは世界的な現象なんです。ドイツなど、昔はドイツ映画のシェアが10%くらいしかなかったのに、今はそこそこ上がってきている。それは映画だけの現象ではなく、いろんなものが内向きになっているのは確かです。

-ナショナリズムでしょうか?
西村 プチ・ナショナリズム(笑)。

-そういう内向きな人たちに刺激を与えるのでなく、自発的に外に向かおうという人に場を提供するのがユニジャパンの仕事なのだから、考えてみると難しいですね。
西村 難しいです。でも出て行く可能性は絶対にあると思っています。出て行かなきゃいけないということではなく。宮崎駿や黒沢清だけでなく、『踊る大捜査線』のような作品にも外に出て行く可能性はあるし、それを広げるお手伝いをしましょう、というのが僕らの仕事なんです。
                (10月17日、新川のユニジャパン事務局にて)

 写真はカンヌ映画祭の日本ブースです。

(注)清水崇の『呪怨』をハリウッドでリメイクした『THE JUON呪怨』などで知られるプロデューサー。今年7月に代表取締役を務める(株)オズの法的整理が決定した。

 
(齋藤敦子)